数学記法の記号論
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微積分の読み方:手引きと用語集
この章では、微積分の記号を一つずつ読んできた。以下の手引きは、それらをまとめて読むのに役立つ問いを集めたものである。
微積分に向ける五つの問い
- 何が、何について変わるのか。 $\frac{dy}{dx}$ では、二つの文字がどちらも書かれている。$f'$ では変数は暗黙で、$\dot x$ では時間である。はっきりしなければ、書き出そう。
- 有限の差か、それとも極限か。 $\Delta$ と $\Sigma$ は数による計算であり、$d$ と $\int$ はその計算が限りなく縮んだあとに残るものである。形は似ていても、意味は変わる。
- ここで約してよいか。 変数が一つで微分の階数が一つなら、$\frac{dy}{dx}$ は分数のようにふるまう。2 階導関数や偏導関数では、約す前に確かめよう。
- どの文字が束縛されているか。 積分では $d$ の文字が束縛されており、極限では矢印の文字も束縛されている。どちらも外に出てきてはいけない。
- その $\infty$ は方向か、量か。 $x\to\infty$ や $\sum^\infty$ では方向であり、それを含む計算には極限が必要である。量であるのはカントールの $\aleph$ だけである。
式一つの完全な読解
$$\frac{d}{dx}\int_0^{x}e^{-t^2}\,dt=e^{-x^2}.$$- 積分 $\int_0^xe^{-t^2}\,dt$ は、釣り鐘形の曲線の下の、$0$ から $x$ までの面積である。それは $x$ の関数である。$x$ ごとに面積が一つ決まる。
- $t$ は束縛された文字である。$s$ に替えても何も変わらない。$x$ に替えるとまちがいになる。$x$ はすでに上端にあるからである。
- $\frac{d}{dx}$ は演算子である。$x$ が増えるとき、その面積がどれだけの速さで増えるかを問うている。
- $=$ は、すべての $x$ について成り立つ恒等式を主張している。基本定理の第一部である。
- 注目すべき点: 積分 $\int_0^xe^{-t^2}\,dt$ には初等関数による式がない。それでも、その導関数は一行で書ける。記法のおかげで、書き表せない関数について語ることができるのである。
用語集
- 差($\Delta$)。 量の有限の変化。$\Delta y=f(x+\Delta x)-f(x)$。
- 微分($dy$)。 接線に沿った変化。$dy=f'(x)\,dx$。歩幅が小さいとき $\Delta y$ を近似する。
- 導関数。 $\Delta x\to0$ のときの $\frac{\Delta y}{\Delta x}$ の極限。$\frac{dy}{dx}$、$f'(x)$、$\dot y$、$Dy$ と書く。
- 演算子。 関数を別の関数に変える規則。たとえば微分する $D$。足したり掛けたりでき、注意すれば因数分解もできる。
- 特性方程式。 定数係数の線形微分方程式で、$D$ を $r$ に置き換えて得られる多項式。
- リーマン和。 積分を近似する長方形の面積の和 $\sum f(x_i)\,\Delta x$。
- 定積分。 リーマン和の極限。$\int_a^b f(x)\,dx$ で、一つの数である。
- 原始関数(不定積分)。 $F'=f$ となる関数 $F$。定数の違いを除いて決まる。$\int f(x)\,dx=F(x)+C$。
- 微積分の基本定理。 微分と積分は逆の演算である。$\frac{d}{dx}\int_a^xf=f(x)$、$\int_a^bF'=F(b)-F(a)$。
- 不定形。 $\infty-\infty$ や $\frac00$ のように、値が形だけでなく近づき方によって決まる式。
- 級数。 無限に多くの項をもつ和。部分和がある数に近づくとき収束するといい、その数を級数の和という。
- 条件収束。 収束するが、項を並べ替えると和が変わる級数。
練習:手引きを使う
$\displaystyle\lim_{h\to0}\frac{\sin(x+h)-\sin x}{h}=\cos x$ を読め。
変わるのは極限に束縛された $h$ で、$x$ は自由である。分数は有限の差を歩幅で割ったもの、$\frac{\Delta y}{\Delta x}$ であり、極限がそれを導関数に変える。$=$ はすべての $x$ について成り立つ恒等式である。ラグランジュの記法では $\sin'=\cos$、アルボガストの記法では $D\sin=\cos$ という文になる。
練習:捕獲された文字を見つける
ある学生が $F(x)=\int_1^x\frac{1}{x}\,dx=\ln x$ と書いた。結果は正しい。書き方の何がまちがっているか。
$x$ が自由な上端としても、束縛された積分変数としても現れている。正しくは $F(x)=\int_1^x\frac1t\,dt=\ln x$ である。結果が正しいのはたまたまで、被積分関数が両方の役割に同時に依存していれば、結果はまちがう。