ダミーの文字:和の k と積分の t
次の二つの式は同じ値です。
$$\sum_{k=1}^{4}k^2=1+4+9+16=30,\qquad\sum_{j=1}^{4}j^2=1+4+9+16=30.$$$k$ を $j$ に替えても何も変わりませんでした。文字は、計算がどこを通るかを示すためだけにそこにあり、和が終われば消えてしまいます。このような文字をダミーの文字、あるいは束縛された文字と呼びます。それは未知数の反対です。未知数は大事な値をしまっていますが、ダミーの文字は演算が終わったあとには何の値もしまっていません。
自由と束縛
今度は次の式と比べてみましょう。
$$\sum_{k=1}^{n}k=\frac{n(n+1)}{2}.$$ここには性質の違う二つの文字があります。$k$ は和に束縛されています。$\Sigma$ から式の終わりまでのあいだにだけ存在し、ほかのどんな文字にも替えられます。$n$ は自由です。結果は $n$ に依存します。$n$ を $m$ に替えると、別の数についての別の主張になります。
積分でも同じです。
$$\int_0^x t\,dt=\frac{x^2}{2}.$$$t$ は積分に束縛されていて、$dt$ が閉じ括弧のようにその範囲を示しています。$x$ は自由です。面積はどこまで積分するかによります。そして論理の量化子でも、
$$\forall x\,(x+0=x)$$の $x$ は $\forall$ に束縛されていて、文全体はどんな値にも依存しません。ただ正しいのです。
| 演算子 | 束縛される文字 | 範囲 |
|---|---|---|
| $\displaystyle\sum_{k=1}^{n}$ | $k$ | うしろに続く項 |
| $\displaystyle\int_a^b\cdots\,dt$ | $t$ | $\int$ と $dt$ のあいだ |
| $\forall x,\ \exists x$ | $x$ | うしろに続く論理式 |
| $\lim\limits_{h\to0}$ | $h$ | 極限の下の式 |
| $\{x\mid x>2\}$ | $x$ | 波括弧の中 |
| $x\mapsto x^2$ | $x$ | 関数の規則 |
文字を捕まえる誤り
ダミーの文字は取り替えられるので、危険な誘惑があります。同じ文字を二つのものに使うことです。式
$$\int_0^x x\,dx$$は罠です。上端の $x$ は自由で、積分の中の $x$ は束縛されています。この式は「$x$ を $0$ から $x$ まで積分せよ」と言っているように見えますが、どの $x$ がどれなのかはっきりしません。正しい形は文字を分けます。$\int_0^x t\,dt=\frac{x^2}2$。論理学やプログラミングでは、この誤りには変数の捕獲という名前があり、プログラミング言語のコンパイラはこれを避けるために変数の名前を自動的に付け替えます。
練習:自由か束縛か
$\displaystyle\sum_{k=1}^{m}(k+a)$ で、自由な文字はどれでしょう。$k$ は和に束縛されています。$m$ と $a$ は自由です。実際、結果はそれらだけに依存します。$\sum_{k=1}^{m}(k+a)=\frac{m(m+1)}2+ma$。$k$ を $j$ に替えても値は変わりませんが、$a$ を $b$ に替えると変わります。
練習:積分を直す
ある学生が $\displaystyle F(x)=\int_0^x 3x^2\,dx$ と書きました。文字を分けて書き直し、計算しなさい。正しい形は $F(x)=\int_0^x3t^2\,dt=x^3$ です。学生の書き方では、「外の」$x$ が固定されているからと $3x^2$ を定数として扱い、$3x^2\cdot x=3x^3$ としてしまう人がいるかもしれません。それは間違いです。
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