数学記法の記号論
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記法と文化:手引きと用語集
この章は、記法を人と場所と道具の産物として読んできた。以下の手引きは、どんな記号についてもそうした読み方をする助けになる問いを集めたものである。
記法についての五つの問い
- どんな道具から生まれたか。 算木の盤、パンチカード、APL のキーボード、黒板。記号の形は、しばしば道具の形を保っている。
- どの共同体が使っているか。 物理学者、技術者、プログラマー、市場の売り手。同じ文字が、$\log$ や $j$ のように、部族ごとにちがう意味をもちうる。
- 何に取ってかわったのか、そしてなぜか。 メートルは、商売が得をしたので地方の単位に取ってかわった。十進時間は、だれも得をしなかったので何にも取ってかわらなかった。
- だれを締め出しているか。 どんな略記も、約束を知らない人に通行料を払わせる。多くの読み手のために書く人は、少なくとも一度は近道をほどく。
- 何を考えられるようにしているか。 赤と黒の算木は負の数を考えられるようにした。アイバーソンの括弧は数えることを和に変える。形式的な書き方は、機械が証明を確かめることを可能にする。
ひとつの記号をまるごと読む:プログラムの等号
スーパーマーケットのレジのプログラムにある total = total + price という行を考えよう。
- 道具: パンチカードと Fortran のキーボード。記号が少なく、式から等号を受けついだ。
- 共同体: プログラマー。彼らにとって等号は「しまえ」を意味する。数学者にとって、この行は $\text{price} = 0$ を強いる方程式である。
- 何に取ってかわったか: レジ係が商品ごとに手で行っていた「足して書きとめる」こと。
- だれを締め出しているか: 等号は等しいことを主張するのだと、学校で習ったばかりの生徒。
- 何を考えられるようにしているか: 名前を時間とともに変わる箱として考えること。あらゆる反復アルゴリズムの土台である。
用語集
- 算木の数字。 計算盤を写した中国の数の書き方。算木が位ごとに縦と横を交互にとる。
- 二十進法。 各位が前の位の二十倍を表す体系。マヤが使い、ゼロのための専用の記号をもっていた。
- キープ。 インカが十進の位取りで数を記録するために使った、結び目のある紐の集まり。
- 十進時間。 一日を 10 時間、1 時間を 100 分、1 分を 100 秒に分ける制度。フランス革命が 1794 年に押しつけ、1795 年に放棄した。
- グラード。 直角が 100 になる角度の単位。電卓の
GRADモードとして生き残っている。 - アインシュタインの規約。 ひとつの項に二度現れる添字について和をとることを暗黙のうちに示す規則。
- 床関数と天井関数。 $\lfloor x \rfloor$ は $x$ 以下の最大の整数、$\lceil x \rceil$ は $x$ 以上の最小の整数(アイバーソン)。
- アイバーソンの括弧。 命題 $P$ が真なら $[P]$ は $1$、偽なら $0$。
- 代入。 名前に値をしまう命令。Fortran と C では
x = x + 1、Algol と Pascal ではx := x + 1、クヌースでは $x \leftarrow x + 1$。 - スティグラーの法則。 どんな発見も最初の発見者の名前ではよばれない。スティグラーはこれをマートンのものとした。
- エポニム。 定理や公式や対象に与えられた人名。「パスカルの三角形」など。
- 民族数学。 文化的な集団が学校の内外で数え、はかり、計算するしかたを研究する分野(ダンブロジオ)。
- 証明支援系。 形式言語で書かれた証明を一歩ずつ確かめるプログラム。Coq や Lean など。
練習:手引きを使う
問い 1、2、5 を百分率の記号 $\%$ に当てはめよ。
- 道具: この記号は、イタリアの商売で per cento(百につき)を略したものから来ている。帳簿に手で書かれ、時とともに縮んで $\%$ になった。2. 共同体: 数学者より先に、商人や銀行家。5. 何を考えられるようにしているか: 分母のちがう比を、$100$ という共通の基準で比べること。$\frac{3}{8}$ と $\frac{7}{20}$ は比べにくいが、$37.5\%$ と $35\%$ はそうではない。
練習:三つの記法、ひとつの数
数 $2026$ を六十進法と、(暦の規則を使わない)マヤの二十進法で書け。
六十進法:$2026 = 33 \times 60 + 46$、つまり $33\,;\,46$ で、$33$ 分 $46$ 秒のようなものである。二十進法:$2026 = 5 \times 400 + 1 \times 20 + 6$、つまり位は $5$、$1$、$6$ で、上に棒一本、まん中に点ひとつ、下に棒一本と点ひとつ。最初の文章の対話型の図で、両方を確かめられる。