この本について

$\frac{dy}{dx}$ を生まれつき読める人はいません。$3+4=7$ も同じです。数学の記号はどれも、だれかが、どこかで、何かの問題を解くために発明したもので、自然に見えるようになるまでには、何世代もの読者がそれを学ばなければなりませんでした。発明者が想像もしなかった道を開いた記号もあれば、すでに知られていることをきちんと記録しただけで、どこにも導かなかった記号もあります。

この本は、数学の記法を記号の体系として見ていきます。記号を研究する学問である記号論を使うと、ある記号が何を表すかだけでなく、それがどう働き、どんな規則に従って読まれ、そして何よりもそれで何ができるのかを問うことができます。このサイトの以前の記事は、文章を短くしても思考は短くしない書き方を mirabilis abbreviatio(すばらしい省略)と呼んでいました。この本ではそれを生きた記法、その反対を不毛な記法と呼びます。

本の構成

  1. 言葉から記号へ:数学記法の歴史
  2. 数学の記号:約束ごと・指示・解釈
  3. 変数、未知数、関数:関係を組み立てる文字
  4. 等号、同値、証明
  5. 微積分の書き方:変化、蓄積、無限
  6. 図、グラフ、数学の視覚的な側面
  7. 数学を読み書きすることを学ぶ
  8. 記法、文化、知識の形成

最初の四つの章は、46本の短い記事としてすでに公開されています。第1章は歴史編で、インドのゼロとアル=フワーリズミーの言葉による代数から、アーリヤバタの正弦、ネイピアの対数、ライプニッツの $d$、積分、コーシーの極限、ガロアの群の九九表、ギブズのベクトルを経て、論理学の量化子までをたどります。第2章は概念編で、ソシュール、パース、モリス、デュヴァルを手がかりに、マイナス記号、等号、平方根、グラフを読み解きます。第3章は文字に目を向けます。探される未知数、一般化する任意の数、動く変数、止まっているパラメータ、名前をもった関数、そして別の文字に取り替えてもよいダミーの文字です。第4章は等号を追いかけます。等号が隠している問い・法則・定義、フレーゲの意義と意味、ガウスの $\equiv$、解答の行どうしをつなぐ矢印 $\Rightarrow$ と $\Leftrightarrow$、そして計算の列を証明に変える等式の鎖と小さなことばです。どの記事も単独で読め、最後に解答付きの練習問題が二つあります。残りの章は、この本の今後の予定です。