同じように見える二つの問い:

問い 答え
$\sqrt9$ はいくつか $3$
$x^2=9$ をみたす実数はどれか $3$ と $-3$

一行目をふしぎに思う人はたくさんいます。$(-3)^2$ も $9$ なのに、なぜ $\sqrt9$ は「$\pm3$」ではないのか。答えは第 1 章、この記号の古い名前の中にあります。Radix quadrati は正方形の辺でした。面積 $9$ の正方形の辺は $3$ で、長さが $-3$ の辺はありません。

面積 9 の正方形の辺は 3。方程式 x² = 9 には解が二つあるが、辺は一つしかない。
面積 9 の正方形の辺は 3。方程式 x² = 9 には解が二つあるが、辺は一つしかない。この本のために作成した説明図。

一つの記号、一つの値

現代の数学は、正方形の記憶を一つの定義の中に残しました。$a\ge0$ のとき、記号 $\sqrt a$ は、2 乗すると $a$ になるただ一つの負でない数を表す、というものです。これには統語論的な理由もあります。数を受けとって、ときには一つ、ときには二つの値を返す記号は、計算の中に入れられません。$\sqrt9+1$ は $4$ なのか $-2$ なのか。$\sqrt{\phantom{a}}$ がほかの演算と同じように働くには、答えを一つ返さなければならず、それがどれかは幾何学が教えてくれるのです。

だからといって $-3$ が消えるわけではありません。それはやはり $x^2=9$ の解であり、二つの解を示す書き方は

$$x^2=9\iff x=\sqrt9\ \text{ または }\ x=-\sqrt9\iff x=\pm3$$

です。$\pm$ は根号の外に現れます。解が二つあるのは記号ではなく方程式だからです。二次方程式の解の公式で、根号の前に $\pm$ が書かれているのはそのためです。根号だけなら値は一つで、$\pm$ が両方を求めているのです。

√(x²) は x ではない

多くの人がひっかかる結論があります。$\sqrt{x^2}$ はいくつでしょうか。根号と 2 乗を「約分」して $x$ と書きたくなります。$x=-5$ で試してみましょう。

$$\sqrt{(-5)^2}=\sqrt{25}=5\ne-5.$$

根号はいつも辺、つまり正の数を返します。正しくは

$$\sqrt{x^2}=|x|,$$

$x$ の絶対値です。ここでは生きた記法がわなをしかけています。$\sqrt{x^2}$ の形は、$x\ge0$ のときにしか成り立たない約分を示唆しているのです。

収まらない対角線

正方形の辺には、もう一つ驚きが隠れています。辺が $1$ の正方形の対角線を $d$ とすると、ピタゴラスの定理から $d^2=1^2+1^2=2$。つまり対角線は、面積 $2$ の正方形の辺なのです。

$$d=\sqrt2=1.41421356\ldots$$

ギリシア人は、おそらく紀元前 5 世紀に、この数が分数ではないことを発見しました。$\left(\frac pq\right)^2=2$ となる整数 $p$、$q$ は存在しないのです。伝説によれば、ピタゴラス学派のメタポンティオンのヒッパソスは、この秘密をもらしたために海に投げこまれました。ただの伝説ですが、衝撃の大きさを物語っています。定規で引ける線分なのに、その長さを書ける分数がなかったのです。

ここで記号はたいへんな仕事をしています。小数の書き方 $1.41421356\ldots$ は終わることも、くり返すこともありません。$\sqrt2$ という書き方は正確で、二文字に収まります。その数がいくつなのかは言いませんが、それが何であるかを言っています。面積 $2$ の正方形の辺です。この名前があれば、小数を一けたも書かずに、$\left(\sqrt2\right)^2=2$ や $\sqrt8=2\sqrt2$ のような正確な計算ができるのです。

記号とその対象

記号論のことばで言えば、平方根の問題は意味論の問題です。同じ形 $\sqrt{\phantom{a}}$ には、定義によって定められたはっきりした対象があり、その対象は形が示唆しているように見えるものと一致しません。正方形の図は負の数については何も証明しませんが、定義がなぜそうなっているのかを説明してくれます。自分の起源を忘れた記号は、使うのは速くなりますが、使いまちがえやすくもなります。このサイトの以前の記事がくり返し言っていたように、その記憶を取りもどすことは、記号に生きた部分を返す一つの方法なのです。

練習問題:根号と絶対値

$x=1$ と $x=5$ のときの $\sqrt{x^2-6x+9}$ を計算します。

$x^2-6x+9=(x-3)^2$ なので、$\sqrt{(x-3)^2}=|x-3|$ です。$x=1$ なら $|1-3|=2$、$x=5$ なら $|5-3|=2$。直接確かめると、$x=1$ では $1-6+9=4$ で $\sqrt4=2$、$x=5$ では $25-30+9=4$ で $\sqrt4=2$ です。根号を「約分」した人は $x-3$ と書いて、$x=1$ のとき $-2$ という、根号ではありえない値を出してしまいます。

練習問題:面積 50 の正方形の辺

辺は $\sqrt{50}$ です。$50=25\cdot2$ で、$25$ も $2$ も正なので、$\sqrt{50}=\sqrt{25}\cdot\sqrt2=5\sqrt2\approx5\cdot1.4142=7.071$。幾何学的には、面積 $50$ の正方形は一辺 $10$(面積 $100$)の正方形の半分であり、その辺は大きな正方形の対角線の半分、$\frac{10\sqrt2}{2}=5\sqrt2$ です。


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