ボンブは速かったが、海軍のエニグマのローターの順序をすべて試すほどには速くなかった。1940 年、チューリングは、機械を動かす前にその大部分を除くための、紙と鉛筆の方法を考え出した。この方法で使う用紙がバンベリーの町で印刷されていたので、同僚たちはそれをバンブリスムスと名づけた。

これは統計的な方法である。そしてそれを考え出すために、チューリングは現代統計学の中心的なアイデアの一つを独自に発明しなおした。

くり返す文字

ドイツ語の通信を二つ、上下に並べて書き、両方が同じ文字になっている位置を数えてみよう。ドイツ語では E、N、R、I がよく使われるので、一致は文字が無作為に選ばれた場合よりずっと多い。ドイツ語の文章では、並んだ二つの文字が一致する確率はおよそ $\frac1{17}$ である。文字が無作為なら $\frac1{26}$ になる。

エニグマはこの性質を奇妙なかたちで保つ。二つの通信が同じローター位置の列で暗号化されていれば、同じ位置の同じ文字は同じ文字になるので、原文の一致は暗号文でも一致のまま残る。位置が違えば、割合は $\frac1{26}$ に落ちる。だから一致を数えれば、二つの通信がそろっているという証拠が得られ、それがローターの位置についての情報をもたらした。

一致一つの値打ち

チューリングは問うた。一つの一致は、通信がそろっているという私の確信をどれだけ強めるべきか。答えは尤度比、つまり一方の場合に一致を見る見込みが、他方の場合の何倍か、である。

$$\frac{\text{そろっているときの一致の確率}}{\text{そろっていないときの確率}}=\frac{1/17}{1/26}=\frac{26}{17}\approx1.53.$$

一致のない位置は、反対向きの、ずっと弱い証拠である。

$$\frac{16/17}{25/26}=\frac{416}{425}\approx0.979.$$

ベイズの定理によれば、証拠は一つごとにオッズ(ある仮説の確率と、もう一方の仮説の確率の比)にその尤度比をかける。位置が多ければかけ算も多くなり、手でのかけ算は遅い。

かけるかわりに足す

チューリングは、三世紀前にネイピアがしたことをした。対数に移って、かけ算を足し算に変えたのである。彼は尤度比の常用対数をバン、その十分の一をデシバンと呼んだ。

$$\text{デシバンで表した重み}=10\log_{10}(\text{尤度比}).$$

すると、一致一つは

$$10\log_{10}\frac{26}{17}\approx+1.8\ \text{デシバン},$$

一致のない位置一つは

$$10\log_{10}\frac{416}{425}\approx-0.09\ \text{デシバン}$$

の値打ちになる。第 8 号小屋の作業員は、数えて足すだけでよかった。合計が $+20$ デシバンなら、証拠によって仮説のオッズが前の $10^2=100$ 倍になったということである。

練習:証拠を足し合わせる

200 か所でそろえた二つの通信に一致が 14 か所ある。重みの合計は何デシバンか。そろっているという仮説はより確からしくなったか。

一致が 14 か所、一致のない位置が 186 か所なので、$14\cdot1.8+186\cdot(-0.09)\approx25.2-16.7=8.5$ デシバン。正なので、そろっているほうのオッズはおよそ $10^{0.85}\approx7$ 倍になった。文字が無作為なら一致の期待値は $200/26\approx7.7$、そろっていれば $200/17\approx11.8$ である。14 はそろっているほうによく合う。

練習:一致がいくつで引き分けか

100 か所のうち、一致がいくつ $k$ なら重みの合計がゼロになるか。

$1.8k-0.09(100-k)=0$、すなわち $1.89k=9$ で、$k\approx4.8$。100 か所で一致が 5 以上あれば、証拠はもうそろっているほうに傾く。これは無作為の期待値 $100/26\approx3.8$ と、そろっているときの期待値 $100/17\approx5.9$ のあいだの数である。

出典: I. J. Good, “Studies in the history of probability and statistics XXXVII: A. M. Turing’s statistical work in World War II”, Biometrika(1979)· Andrew Hodges, Alan Turing: The Enigma(1983)· Sharon Bertsch McGrayne, The Theory That Would Not Die(2011)。


アラン・チューリングの全トピック · ← エニグマ:1.59×10²⁰ 通りの鍵と一つの欠陥 · 模倣ゲーム:機械は考えることができるか →

画像クレジット.