発散級数は悪魔の発明であり、それをもとにどんな証明であれ組み立てるのは恥である。

— ニールス・ヘンリック・アーベル、ホルンボエへの手紙(1826 年 1 月)

1665 年、若きニュートンは、二項定理が整数でない指数でも成り立つことを発見しました。

$$(1+x)^m=1+mx+\frac{m(m-1)}{2}x^2+\frac{m(m-1)(m-2)}{6}x^3+\cdots$$

$m$ が正の整数なら、和は $m+1$ 項で終わります。$m=\frac12$ や $m=-1$ では決して終わりません。無限個の項をもつ和、すなわち級数になるのです。ニュートンもオイラーも、18 世紀のすべての数学者が、この級数を使って大きな成功を収めました。それがいつ成り立つのかを問うた人は、ほとんどいませんでした。

アーベルはまだ学校にいたころにこの級数に出会いました。16 歳のとき、オイラーによる二項定理の証明が有理数の指数でしか成り立たないことに気づき、それをすべての数に広げようとしました。八年後、ベルリンで、彼ははるかに厳密にこの問題に戻ってきました。

級数がだますとき

$m=-1$ としましょう。級数は

$$\frac1{1+x}=1-x+x^2-x^3+x^4-\cdots$$

を与えます。$x=\frac12$ では左辺は $\frac23$ で、右辺 $1-0.5+0.25-0.125+\cdots$ はたしかに $0.666\ldots$ に近づきます。しかし $x=1$ では右辺は $1-1+1-1+\cdots$ となり、$1$ と $0$ の間を行ったり来たりして決まりません。一方、左辺は $\frac12$ です。オイラーは和が $\frac12$「である」と認めていました。$x=2$ ではもっと悪くなります。左辺は $\frac13$ なのに、右辺 $1-2+4-8+16-\cdots$ は限りなく大きくなるのです。

部分和がどの数にも近づかない級数を発散級数といいます。18 世紀の数学者たちはこうした級数を自由に扱い、ときにばかげた結果に達しました。フランスではコーシーが 1821 年、『解析教程』で秩序を立て直し始めました。アーベルはパリでコーシーを読み、さらに先へ進みました。

アーベルの証明

1826 年の『クレレ誌』の論文で、アーベルは二項級数を完全に厳密に調べました。指数 $m$ は任意で、複素数でもよく、$x$ も任意です。彼は $|x|<1$ のとき級数が $(1+x)^m$ に収束することを証明し、端である $|x|=1$ で何が起こるかを正確に述べました。ニュートンの級数についてこれをしたのは、彼が初めてでした。

区間の内側では、級数はとてもよく働きます。$m=\frac12$ のとき係数は $1,\ \frac12,\ -\frac18,\ \frac1{16},\ -\frac5{128},\dots$ で、

$$\sqrt{1+x}=1+\frac x2-\frac{x^2}8+\frac{x^3}{16}-\frac{5x^4}{128}+\cdots$$

$\sqrt{1.2}$ を求めるには $x=0.2$ として、

$$1+0.1-0.005+0.0005-0.0000625\approx1.0954.$$

正しい値は $1.09545\ldots$ です。五項で、もう小数点以下 4 桁が正しいのです。

アーベルの定理

同じ論文には、今日彼の名で呼ばれる結果があります。べき級数 $a_0+a_1x+a_2x^2+\cdots$ が $x=1$ で収束するとします。すると、$x=1$ での級数の値は、$x$ が下から $1$ に近づくときの値の極限に等しいのです。

$$\boxed{\lim_{x\to1^-}\sum_{n=0}^\infty a_nx^n=\sum_{n=0}^\infty a_n.}$$

明らかに見えますが、そうではありません。これこそ、昔の数学者が深く考えずに行い、ときにまちがえた極限の操作なのです。この定理によって、それが保証されます。例を挙げましょう。$|x|<1$ のとき

$$\ln(1+x)=x-\frac{x^2}2+\frac{x^3}3-\frac{x^4}4+\cdots$$

$x=1$ では、項の符号が交互に変わり、しだいに小さくなるので、級数は収束します。アーベルの定理により、その値は $\ln2$ です。

$$1-\frac12+\frac13-\frac14+\cdots=\ln2\approx0.6931.$$
練習問題:√(1 + x) の級数の最初の四項を使って √0.81 を計算せよ。

$x=-0.19$ として、$1-0.095-0.0045125-0.0004287\approx0.90006$。正確な値は $0.9$ です。五番目の項 $-\frac{5x^4}{128}\approx-0.00005$ を加えると、結果は $0.90001$ になります。

練習問題:級数 1 − x + x² − x³ + … が x = 2 で収束しえないのはなぜか。

項は $1,\ -2,\ 4,\ -8,\ 16,\dots$ で、限りなく大きくなります。級数が収束するには項が 0 に近づかなければなりません。各部分和は、一つ前の部分和とちょうど最後の項だけちがうからです。ここでの部分和は $1,\ -1,\ 3,\ -5,\ 11,\dots$ で、どんどん離れていきます。公式 $\frac1{1+x}$ は $x=2$ でもやはり $\frac13$ です。成り立たなくなるのは級数のほうなのです。

出典: Niels Henrik Abel、“Untersuchungen über die Reihe $1+\frac m1x+\frac{m(m-1)}{1\cdot2}x^2+\cdots$"、Journal für die reine und angewandte Mathematik 1(1826)· Øystein Ore、Niels Henrik Abel: Mathematician Extraordinary(1957)· アーベルの伝記、MacTutor。


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