場所がアルゴリズムになるとき:かけ算と比例
前の記事で、記号の位置が式の意味の一部であることを見ました。かっこや指数や分数の横線は、部品がどう組み合わさるかを示しています。この考えを極端までおしすすめた計算法があります。それぞれの数を書く場所そのものがアルゴリズムになっているのです。数をどこに置くかを知っている人は、もう計算のしかたを知っています。このサイトの以前の記事は、三つの時代から三つの例を集めていました。
エジプト人:倍にしてかける
3500 年以上前、エジプトの書記たちは九九表なしでかけ算をしていました。二つの列を使います。左には $1$ から始まる $2$ の累乗、右には一方のかける数を、毎回倍にして書きます。$21\times37$ を計算してみましょう。
| 1 を倍に | 37 を倍に | |
|---|---|---|
| ✓ | $1$ | $37$ |
| $2$ | $74$ | |
| ✓ | $4$ | $148$ |
| $8$ | $296$ | |
| ✓ | $16$ | $592$ |
左の列で、たすと $21$ になる行に印をつけます:$16+4+1=21$。右の列では、印のついた行だけをたします:$592+148+37=777$。これで $21\times37=777$ です。
魔法のように見えます。このサイトの以前の記事も「これは神秘主義か?」と問うていました。そうではありません。左の列の印は、$21$ を二進法で書いているのです。
$$21=1\cdot2^4+0\cdot2^3+1\cdot2^2+0\cdot2^1+1\cdot2^0=10101_2,$$そして計算は分配法則にすぎません:$21\times37=(16+4+1)\times37$。エジプトの書記たちは、ライプニッツがそれについて書く三千年以上も前に、二進法の算術をしていたのです。彼らの表は一つの記法です。✓ のついた行とつかない行が、1 と 0 なのです。
パチョーリ:窓でかける
1494 年、フランシスコ会の修道士ルカ・パチョーリは、ヴェネツィアで『算術、幾何、比および比例大全』を出版しました。商人が知っておくべきことをすべて集めた百科事典です。かけ算のいろいろな方法の中で、彼は対角線で区切った格子の中で行う方法を教え、その名前をこう説明しています。
ゲロジアとは、ご婦人の住む家の窓によく取りつけられている、あの格子のことである。
— ルカ・パチョーリ『算術大全』(1494)
gelosia(ゲロジア)は、外から見られずに通りを見られる木の格子窓でした。計算の形が、その格子に似ていたのです。
$23$ の各けたを上に、$12$ の各けたを右に書きます。それぞれのマスには、交わる二つの数字の積を、十の位を対角線の上に、一の位を下に書きます:$1\times2=02$、$1\times3=03$、$2\times2=04$、$2\times3=06$。それから、ななめの帯にそって下から順にたします:$6$、$4+0+3=7$、$0+0+2=2$、$0$。答えは $0276$、つまり $23\times12=276$ です。
秘密はまたしても場所にあります。ゲロジアのななめの帯は位なのです。一本目が一の位、二本目が十の位、三本目が百の位。学校の筆算が「くり上がり」と、一行ごとに左へずらすことでしていることを、格子がひとりでにやってくれるのです。このサイトの以前の記事は、同じ計算を位の表でも示していました。
| 部分積 | 百の位 | 十の位 | 一の位 |
|---|---|---|---|
| $20\times10$ | $2$ | $0$ | $0$ |
| $3\times10$ | $0$ | $3$ | $0$ |
| $20\times2$ | $0$ | $4$ | $0$ |
| $3\times2$ | $0$ | $0$ | $6$ |
| 合計 | $2$ | $7$ | $6$ |
比例の規則:買ったものを前に、問いをうしろに
三つ目の例がいちばん有名です。三数法(比例の規則)はインドで生まれ、628 年にブラフマグプタがすでに trairāśika(「三つの量」)という名で説明しており、アラビアの書物を通じてヨーロッパに伝わりました。商売でいちばんよくある問題、つまり「これだけでいくらなら、これだけではいくらか」を解くものです。15 世紀から 18 世紀の算術書では、さまざまな名前で呼ばれていました。このサイトの以前の記事がそれを集めています。
| 著者 | 年 | 名前 |
|---|---|---|
| トレヴィーゾ算術書(作者不明) | 1478 | la regula de le tre cose、三つのものの規則 |
| ヨハネス・ヴィトマン | 1489 | regula proportionum、比例の規則 |
| ルカ・パチョーリ | 1494 | regula trium、la regola ditta de 3 |
| クリストフ・ルドルフ | 1525 | die Regel de Tri |
| クリストファー・クラヴィウス | 1583 | regula mercatorum、商人の規則 |
| J・F・ラウテンシュラーガー | 1598 | gulden Regul、黄金の規則 |
| ジョン・ウォード | 1771 | the golden rule、黄金の規則 |
「黄金の規則」という名前が多くを語っています。商人の見習いが知りうる、いちばん価値ある規則だったのです。そしてそれは、位置のレシピとして教えられていました。ラウテンシュラーガーは 1598 年の算術書で、覚えやすいよう韻をふんだ詩にまとめています。
買ったもの、値段、そして三番目に問い。値段はいつもまんなかに、買ったものは前に、問いはうしろに。うしろの数にまんなかの数をかけ、その積を前の数でわれ。そうすればおまえの問いの答えが得られる。
— J・F・ラウテンシュラーガー『算術』(1598)、三数法についての詩
実際にはこうです。「布 $3$ エルが $12$ フローリンなら、$7$ エルはいくらか。」見習いは一行にこう書きます。
$$\underbrace{3\ \text{エル}}_{\text{買ったもの}}\quad\underbrace{12\ \text{フローリン}}_{\text{値段}}\quad\underbrace{7\ \text{エル}}_{\text{問い}}$$そしてレシピをあてはめます:$7\times12=84$、$84\div3=28$ フローリン。比例を理解している必要はありませんでした。それぞれの数をその場所に置けば十分だったのです。
今日では同じことを、未知数が見える形で、比の等式として書きます。
$$\frac{3}{12}=\frac{7}{x}\quad\Longrightarrow\quad 3x=7\cdot12\quad\Longrightarrow\quad x=28.$$この書き方は、$\times$ のウィリアム・オートレッドに始まります。彼は 1631 年にはすでに、比例の二つの比を $::$ という記号で区切り、$3.12::7.x$ のように書いていました。この書き方は、位置のレシピを関係に置きかえます。そのちがいは、問題が変わったときに現れます。
位置のレシピがうまくいかないところ
「4 人のれんが職人が $6$ 日で壁を作る。同じ壁を $3$ 人で作ると何日かかるか。」ラウテンシュラーガーのレシピでは、買ったものが $4$、値段が $6$、問いが $3$ なので、$3\times6\div4=4.5$ 日。職人が減ったのに早く終わる? レシピは数が何を意味するかを知りません。数がどこにあるかを知っているだけです。
これは反比例する量の問題です。人が少なければ、仕事には時間がかかります。変わらないのは「職人の数かける日数」です:$4\times6=3\times x$、したがって $x=8$ 日。昔の本には、位置の順序を変えた「逆の三数法」という二つ目のレシピがあり、生徒はどちらを使うかを推測しなければなりませんでした。ブラジルの学校では、同じジレンマを別の記法で解決します。二つの列と二本の矢印です。二つの量がいっしょに増えるときは矢印を同じ向きに、一方が増えて他方が減るときは反対向きにします。矢印は、ラウテンシュラーガーの一行に欠けていた情報をちょうど運ぶ記号なのです。
これが、この本で不毛な記法と生きた記法のちがいと呼んでいるものです。位置のレシピは、問題がいつも同じであるかぎりは働きます。比の書き方 $\frac ab=\frac cx$ や、積が一定という書き方 $a\cdot b=c\cdot x$ は、どんな関係を仮定しているのかを示すので、問題が変わっても働きつづけるのです。
練習問題:エジプト人のようにかける
倍にする方法で $13\times25$ を計算します。左の列は $1, 2, 4, 8$、右の列は $25, 50, 100, 200$。$13=8+4+1$ なので、$8$、$4$、$1$ の行をたします:$200+100+25=325$。二進法では $13=1101_2$ で、印をつけた行が、数字 $1$ の行なのです。
練習問題:正比例か反比例か
時速 $60$ km の車が、ある道のりを $5$ 時間で走ります。時速 $75$ km では何時間かかるでしょうか。
位置のレシピなら $75\times5\div60=6.25$ 時間で、速く走るのに時間が長くかかるという、ばかげた答えになります。速さと時間は反比例します。変わらないのは道のりで、$60\times5=300$ km です。したがって $75\times t=300$、$t=4$ 時間。正しい問いは「それぞれの数をどこに置くか」ではなく、「何が変わらないのか」なのです。
出典: Florian Cajori, A History of Mathematical Notations · Luca Pacioli, MacTutor · Frank J. Swetz, Capitalism and Arithmetic: The New Math of the 15th Century(1987)。