アルベルト・アインシュタインの遺産
想像力は知識より大切だ。知識にはかぎりがあるが、想像力は世界を包みこむ。
— アルベルト・アインシュタイン、『サタデー・イヴニング・ポスト』のインタビュー(1929)
アインシュタインは、だれもが顔を知っているただひとりの科学者です。けれども彼の遺産はポスターのなかにはありません。私たちが何も考えずに使っている道具のなかに、そして物理学者が今も答えようとしている問いのなかにあるのです。彼の予言のいくつかは、死後何十年もたってからようやく確かめられました。
レーザー
1917 年、物質が光を吸収し放出するしくみを調べていたアインシュタインは、励起された原子が、自然に光子を吸収・放出するだけでなく、光子によって 誘導 されて、同じ向きにそっくり同じ光子をもうひとつ出すことがあると気づきました。理論上の観察でした。四十年後、それは レーザー になります。「誘導放出による光の増幅」の英語の頭文字です。バーコードの読み取り機、光ファイバー、目の手術、講義用のポインターは、どれも誘導放出の応用です。
物質の新しい状態
1924 年、インドの物理学者サティエンドラ・ナート・ボースが、光子の新しい数え方を述べた論文をアインシュタインに送りました。アインシュタインはそれをドイツ語に訳して発表させ、その考えを原子に広げました。そして、絶対零度のすぐ近くでは、ある種の原子の気体が、まるですべての原子がひとつになったかのように、ただひとつの状態に凝縮すると予言しました。ボース=アインシュタイン凝縮 は 1995 年に実験室でつくられ、実現した人たちは 2001 年のノーベル賞を受けました。
宇宙と「最大のあやまち」
1917 年、アインシュタインは一般相対性理論を宇宙全体にあてはめました。方程式によれば、宇宙はじっとしていることができず、膨張するか収縮するかしなければなりません。当時はだれもが静止した宇宙を信じていたので、アインシュタインは宇宙を止めておくためだけに、方程式にひとつの項、宇宙定数 $\Lambda$ を加えました。1929 年、エドウィン・ハッブルが、銀河どうしが遠ざかっていること、つまり宇宙が膨張していることを示します。物理学者ジョージ・ガモフによれば、アインシュタインはあの定数を生涯「最大のあやまち」だったと言ったそうです。
話にはどんでん返しがあります。1998 年、宇宙の膨張が 加速している ことがわかり、いちばん簡単な説明がまさに宇宙定数だったのです。「あやまち」は方程式に戻ってきました。
時空のさざ波
1916 年、アインシュタインは、加速する質量が 重力波、つまり光の速さで伝わる時空そのもののさざ波を生むと予言しましたが、弱すぎて測ることはできないだろうと考えていました。2015 年 9 月 14 日、ほぼ百年後、アメリカの LIGO の検出器がそれをとらえました。13 億光年のかなたで二つのブラックホールが合体したときのものでした。その波は検出器の長さ 4 km の腕を、陽子の大きさの千分の一にもならないだけのばしたり縮めたりしました。
ブラックホール
アインシュタインの方程式は、時空があまりにゆがんで光さえ逃げられない領域を許します。アインシュタイン自身は、自然がそんなものをつくるのか疑っていました。今では、私たちの銀河の中心に太陽の 400 万倍の質量のブラックホールがあることがわかっており、2019 年にはイベント・ホライズン・テレスコープが、M87 銀河にあるブラックホールの影の最初の画像を公開しました。
アインシュタインとブラジル
1925 年の訪問はあとを残しました。アインシュタインを迎えたのは、ブラジル科学アカデミーと、国立天文台の台長でソブラルの日食観測にも加わった科学者エンリケ・モリーゼでした。新聞は似顔絵やコラムを載せ、そのひとつは相対性という言葉をもじって「無相対性」という題の風刺画を掲げました。ソブラルには今、望遠鏡が据えられた場所に 日食博物館 があり、2019 年の百周年には、町で一週間にわたる科学の催しが開かれました。
残ったもの
- 量子物理学。 光子、光電効果、誘導放出、ボース=アインシュタイン統計。
- 原子。 ブラウン運動はアボガドロ数の最初の直接測定をもたらし、原子の存在をめぐる論争に決着をつけた。
- 空間と時間。 特殊相対性理論は空間と時間をひとつにし、質量がエネルギーであることを示した。
- 重力。 一般相対性理論は重力を幾何学に変え、現代の宇宙論を生んだ。
- 技術。 GPS、レーザー、光電池、原子力、PET 検査。
覚えておきたいこと
- アルベルト・アインシュタインは 1879 年から 1955 年まで生きた。1905 年、特許局で働きながら、物理学を変える四つの論文を発表した。
- 光はエネルギー $hf$ のかたまりでエネルギーをやりとりする。光電子の最大エネルギーは $hf-\phi$。
- ブラウン運動では、典型的な距離は時間の平方根で増える。$\langle x^2\rangle=2Dt$。
- 速さ $v$ で動く時計は因子 $\gamma=1/\sqrt{1-v^2/c^2}$ だけ遅れる。光時計のピタゴラスの定理がそれを示す。
- 質量はエネルギーである。$E=mc^2$。1 グラムは $9\times10^{13}$ J にあたる。
- 重力は時空のゆがみである。太陽のすれすれを通る光は $1.75''$ 曲がる。1919 年のソブラルの写真がそれを確かめた。
出典: ウォルター・アイザックソン『アインシュタイン その生涯と宇宙』· アブラハム・パイス『神は老獪にして… アインシュタインの人と学問』· LIGO、重力波の最初の検出。
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