ゾウとハイヒールをはいた女性。やわらかい地面に深く沈むのはどちらでしょうか。女性のほうかもしれません。ゾウは五十倍も重いのですが、その重さは四本の大きな足に広がっています。女性の重さは、細いヒールの先に集中しています。

地面を沈ませるのは力ではなく圧力です。圧力とは、力をそれがかかる面積で割ったものです。

$$p=\frac FA.$$

圧力の単位はパスカルです。$1\ \text{Pa}=1\ \text{N/m}^2$、つまり 1 ニュートンの力が 1 平方メートルに広がった圧力です。これはとても小さな圧力で、海面での大気の圧力は約 $100\,000$ Pa です。

液体についての論文

1653 年ごろ、パスカルは『流体の平衡について』を書きました。出版されたのは彼の死後の 1663 年です。そこには、今日パスカルの原理と呼ばれる規則が書かれています。

閉じこめられて静止している液体の一点に加えられた圧力の増加は、液体のすべての点と容器の壁に、等しく伝わる。

歯みがきのチューブの真ん中を押すと、口から中身が出てきます。指の圧力がそこまで届いたのです。風船に水を入れ、何か所か穴をあけて押すと、すべての穴から、あらゆる方向に水が噴き出します。

破裂した樽

パスカルが有名な実演をしたという話があります。水をいっぱいに入れてしっかり閉じた樽のふたに、高さ約 10 メートルの細くて長い管を差し込みました。バルコニーに上がって管に水を注ぐと、1 リットルあまりで樽が破裂したというのです。

この場面が本当にそのとおりだったかはわかりませんが、計算するとありえたことがわかります。高さ $h$ の液柱の底での圧力は

$$p=\rho gh,$$

です。$\rho$ は液体の密度、$g\approx9.8\ \text{m/s}^2$ です。高さ 10 メートルの水なら、$\rho=1000\ \text{kg/m}^3$ として

$$p=1000\cdot9.8\cdot10=98\,000\ \text{Pa}.$$

大事なのは水柱の高さで、水の量ではありません。管の断面積が $1\ \text{cm}^2$ なら、10 メートルの水はたった $1$ リットルです。ところが、この $98\,000$ Pa は樽のふた全体に伝わります。ふたの面積が $0.2\ \text{m}^2$ なら、ふたにかかる力は

$$F=pA=98\,000\cdot0.2=19\,600\ \text{N},$$

2 トンのものの重さに相当します。細い管の中のたった 1 リットルの水が、自動車が載っているような力でふたを押すのです。

水圧機

パスカルは、この原理を使えば力を何倍にもできることに気づきました。水を満たした二つの円筒が底でつながり、それぞれピストンでふさがれているとします。一方は細く、もう一方は太い。細いピストンを力 $F_1$ で押すと、圧力は $F_1/A_1$ だけ増え、その同じ増加が太いピストンに伝わります。

$$\frac{F_1}{A_1}=\frac{F_2}{A_2}\quad\Longrightarrow\quad F_2=F_1\cdot\frac{A_2}{A_1}.$$

小さなピストンを押す一人の人は、百倍広いピストンを押す百人の人の力に等しくなる。

— ブレーズ・パスカル『流体の平衡について』

小さいほうの面積が $2\ \text{cm}^2$、大きいほうが $8\ \text{cm}^2$ なら、比は $4$ です。小さいピストンに $50$ N の力をかけると、大きいピストンでは $200$ N になります。車を持ち上げる油圧ジャッキも、足一本の力で車を止めるブレーキも、ショベルカーも、この仕組みで動いています。

理想的なモデル:ピストンは同じ高さ、小さい面積は 2 cm²、流体は圧縮されない。

力と面積の比を変えてみましょう。大きいピストンにかかる力は大きくなりますが、その動く距離は同じ割合で小さくなります。

うまい話はない

水圧機が力を 4 倍にするなら、エネルギーを生み出しているのでしょうか。いいえ。小さいピストンが距離 $d_1$ だけ下がると、体積 $A_1d_1$ の水を押し出します。同じ体積の水が太い円筒に入り、太いピストンは $d_2$ だけしか上がりません。

$$A_1d_1=A_2d_2\quad\Longrightarrow\quad d_2=d_1\cdot\frac{A_1}{A_2}.$$

力は 4 倍になりますが、大きいピストンが動く距離は 4 分の 1 です。仕事、つまり力かける距離は、両側で同じです。

$$F_1d_1=F_2d_2.$$

ジャッキで車を 10 cm 持ち上げるには、何度もポンプを押します。一回の力は小さくても、全体の行程は長いのです。パスカルはこのことにもう気づいていました。水圧機は水でできたてこなのです。

練習:面積の比が 5 で、小さいピストンが 10 cm 下がりました。大きいピストンはどれだけ上がりますか?

体積が等しいので、$d_2=\dfrac{10}{5}=2$ cm です。そのかわり、大きいピストンにかかる力は 5 倍になります。

練習:プールの深さ 3 メートルでの水の圧力は?

水による圧力の増加は $\rho gh=1000\cdot9.8\cdot3=29\,400$ Pa で、大気圧の約 30% です。大気圧を加えると、全体の圧力は $130\,000$ Pa 近くになります。潜ったときに耳で感じるのがこれです。

出典: パスカルの伝記、MacTutor · 『流体の平衡について』、ウィキソース(フランス語)。


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