数学記法の記号論
75 / 86 ページ
数学の読み書きを身につけるには:手引きと用語集
この章は学ぶ人によりそってきた。数を書き写す子ども、文章題を読む生徒、解答を書く学生。以下の手引きは、そのどの場面でも役に立つ習慣を集めたものである。
六つの習慣
- 鉛筆を手に読む。 数学の文章は密度が高い。一行が一段落に相当することもある。ポール・ハルモスは「ただ読むな。闘え!」と勧めた。計算をやり直し、例を考え、各段階がなぜ成り立つのかを問うこと。
- 声に出して読む。 $\sum_{k=1}^{n} k^2$ を「$k$ の二乗の、$k$ が一から $n$ までの和」と言うと、各部分を見分けざるをえない。話しことばがつかえるところでは、読みもつかえている。
- 計算する前に形を見る。 最後の演算は何か。くり返し、対称性、二度出てくる数はあるか。ボグダノフ=ベリスキーの黒板は、見ることで解ける。
- 両方向に翻訳する。 文章から式へは、未知のものそれぞれに名前と単位をつけて。式から文章へもどっては、それが問題の言っていることを言っているかを確かめるために。
- 数で試す。 規則を信じる前に、小さな値を代入する。反例ひとつでまちがった規則はくつがえる。たくさんの例は正しい規則を証明しないが、証明を探す自信を与えてくれる。
- だれかのために書く。 完全な文、式のあいだのことば、計算の前に示される目標。友だちが解答をたどれないなら、それはまだできあがっていない。
書き方の悪い解答をまるごと読む
ある生徒が「$2x + 3 = 11$ を解け」に、次の解答を出した。
$$2x + 3 = 11 = 2x = 8 = x = 4.$$- 正しいところ: 答えの $x = 4$ と、計算そのもの。
- 書かれていること: $11 = 8 = 4$ と主張する等号の鎖で、これは誤りである。等号が「そして次に」として使われている。第4章が区別しなければならないと示した使い方のひとつだ。
- 生徒が従った規則: 「したことを順番に、段階のあいだに等号を入れて書く」。一貫した規則だが、話しことばのレジスターと記号のレジスターを混ぜている。
- 書き直し: 「両辺から $3$ をひくと $2x = 8$。$2$ で割ると $x = 4$。確かめ:$2 \cdot 4 + 3 = 11$。」
- 得られたもの: どの行も、それだけで正しくなった。読み手は、ある行と次の行のあいだで何がなされたかを知っている。
用語集
- 転記。 数をある表し方から別の表し方へ移すこと。たとえば話しことばの数詞から書かれた数字へ。
- 転記の誤り。 数を話すとおりにかたまりごとに書くこと。trezentos e quatro(三百と四)を $3004$ と書くなど。
- 数学のレジスター。 数学について話すために使われる言語の変種。ふだんのことばが取り決められた意味で使われる(ハリデー)。
- 教授学的契約。 生徒と先生が口に出さずに従う規則の集まり。「どの問題にも答えがある」など(ブルソー)。
- キーワード。 演算の命令と受けとられる問題文のことば(「多い」なら足す)。うまくいくこともあるが、よく人を誤らせる。
- 約束。 取り決められた、ほかのものでもありえた規則。演算の順序、小数点、$\sin^2 x$ の意味など。
- まちがった規則。 正しい規則からの類推でつくられた誤った規則。分配法則からの $(a+b)^2 = a^2 + b^2$ など(マッツ)。
- 反例。 一般的な主張が成り立たない場合。ひとつあればその主張はくつがえる。
- プロセプト。 過程であると同時に、その過程が生み出す対象でもある記号。$3+4$ や $13^2$ など(グレイとトール)。
- 道具的理解と関係的理解。 規則の当てはめ方を知っていることと、さらにそれがなぜ成り立つかも知っていること(スケンプ)。
- 線形の記法。 位置の代わりに開始と終了の記号を使い、一列で書く書き方。ネメスの点字、TeX、電卓など。
練習:手引きを使う
ある生徒が書いた。「$\sqrt{x^2 + 9} = x + 3$、だから $x = 4$ のとき $7$ になる。」習慣 5 を使え。
$x = 4$ のとき、$\sqrt{16 + 9} = \sqrt{25} = 5$ であって、$7$ ではない。使われた規則 $\sqrt{a + b} = \sqrt{a} + \sqrt{b}$ は、分配法則からの類推によるまちがった規則であり、数でたった一度試すだけでくつがえる。等式 $\sqrt{x^2+9} = x + 3$ は $x = 0$ のときにしか成り立たない。
練習:声に出して読む
$\dfrac{1}{n}\displaystyle\sum_{k=1}^{n} x_k$ をあいまいさなく声に出して読め。この式は何を計算しているか。
「$n$ 分の一、かける、$x$ の添字 $k$ の、$k$ が一から $n$ までの和。」これは数 $x_1, x_2, \ldots, x_n$ の算術平均である。全部足して、個数で割る。式を声に出して言うことは、その中に見なれた考えを見つける助けになる。