E = mc²:質量に隠れたエネルギー
電気力学の論文から、もうひとつの帰結が思いうかびました。相対性原理とマクスウェルの方程式から、質量は物体に含まれるエネルギーの直接の尺度でなければなりません。この考えはおもしろくて魅力的です。でも、神さまがこれを笑って、私をからかっているのかどうかはわかりません。
— アルベルト・アインシュタイン、コンラート・ハビヒト宛の手紙(1905 年夏)
1905 年 9 月、相対性理論の論文の三か月後、アインシュタインは『物理学年報』にわずか三ページの補足を送りました。題名は問いの形でした。「物体の慣性はそのエネルギー含量によるか?」。答えはイエスで、言葉とちがう文字で書かれたその結論が、物理学で最も有名な式です。
$$\boxed{E=mc^2.}$$簡単にした議論
アインシュタインは、止まっている物体が、同じ瞬間に、反対向きに二つの等しい光のパルスを出すところを考えました。それぞれのエネルギーは $\frac E2$ です。パルスは打ち消しあうので、物体は止まったままです。ここまではふしぎなことはありません。物体はエネルギー $E$ を失いました。
同じ場面を、小さな速さ $v$ で通りすぎる人が見るとします。この観測者にとって、物体は前もあとも同じ速さ $v$ で動いています。けれども相対性理論によれば、前に出た光は少しエネルギーが大きく、うしろに出た光は少し小さく見え、$v$ が小さいとき合計は
$$E\left(1+\frac{v^2}{2c^2}\right)$$になります。この観測者にとっても、全エネルギーは保存されなければなりません。物体は $E$ のほかに $E\frac{v^2}{2c^2}$ を余分に失っており、それは運動のエネルギー $\frac12mv^2$ から出たとしか考えられません。速さは変わっていないので、変わったのは 質量 です。
$$\frac12(\Delta m)\,v^2=E\,\frac{v^2}{2c^2}\quad\Longrightarrow\quad \Delta m=\frac{E}{c^2}.$$どんな形であれエネルギー $E$ を失った物体は、質量 $\frac E{c^2}$ を失います。アインシュタインは結論しました。「物体の質量はそのエネルギー含量の尺度である」。質量とは、たくわえられたエネルギーなのです。
それはどれくらいか
数 $c^2$ は巨大です。$(3\times10^8)^2=9\times10^{16}$ m²/s²。だから小さな質量が莫大なエネルギーにあたります。たった 1 グラムで、
$$E=0.001\ \text{kg}\cdot9\times10^{16}\ \text{m}^2/\text{s}^2\approx9\times10^{13}\ \text{J}.$$TNT 火薬約 2 万 1 千トン分のエネルギーで、広島の原爆より大きく、人口約 1 万人の町が一年に使う電気のすべてにあたります。
逆に、日常のエネルギーにあたる質量はばかばかしいほど小さなものです。1 リットルの水を 20 °C から 100 °C に温めると、水は約 335 000 J を得て、質量は
$$\Delta m=\frac{335\,000}{9\times10^{16}}\approx3.7\times10^{-12}\ \text{kg},$$およそ 10 億分の 4 グラム増えます。どんな秤も気づきません。だから何世紀ものあいだ、質量はぴったり保存されるように見えたのです。
太陽と星
質量がほんとうにエネルギーに変わるのは、原子核のなかです。太陽の中心では、四つの水素の原子核が融合してひとつのヘリウムの原子核になります。ところが帳尻が合いません。
$$4\times1.00783\ \text{u}=4.03130\ \text{u}\quad\text{に対し}\quad\text{ヘリウムは}\ 4.00260\ \text{u}.$$$0.0287$ u、質量の約 0.7% が足りません。この消えた質量がエネルギー $\Delta m\,c^2$ として出ていき、それで太陽は輝いているのです。太陽は $3.8\times10^{26}$ ワットを放っています。$c^2$ で割ると、太陽は
$$\frac{3.8\times10^{26}}{9\times10^{16}}\approx4.3\times10^{9}\ \text{kg/秒},$$毎秒 400 万トン以上を失っています。この割合でも、46 億年で失ったのは質量の千分の一にもなりません。
エネルギーと運動
速さ $v$ で動く質量 $m$ の物体について、相対性理論の完全な式は
$$E=\gamma\,mc^2,\qquad\gamma=\frac1{\sqrt{1-v^2/c^2}}.$$止まっていれば $\gamma=1$ で、$E=mc^2$、つまり 静止エネルギー が残ります。速さが小さいときは $\gamma\approx1+\frac{v^2}{2c^2}$ なので、
$$E\approx mc^2+\frac12mv^2.$$二つ目の項は、ニュートンのなじみの運動エネルギーです。古典物理学は、遅いものについてのアインシュタインの物理学の特別な場合なのです。そして $v\to c$ で $\gamma$ はかぎりなく大きくなるので、質量のある物体を光の速さまで加速するには無限のエネルギーが必要です。質量をもつものは、光の速さに届きません。
練習問題:時速 108 km で走る 1 000 kg の車の運動エネルギーは何ジュールか。それで質量はどれだけ増えるか?
$v=30$ m/s なので、$K=\frac12\cdot1\,000\cdot30^2=450\,000$ J。質量の増加は $\frac{450\,000}{9\times10^{16}}=5\times10^{-12}$ kg、10 億分の 5 グラムです。ふだんの速さでは、質量はほとんど変わりません。
練習問題:質量 9.11 × 10⁻³¹ kg の電子の静止エネルギーは何電子ボルトか?
$E=9.11\times10^{-31}\cdot(3\times10^8)^2\approx8.2\times10^{-14}$ J。$1.602\times10^{-19}$ J/eV で割ると約 $511\,000$ eV、つまり 0.511 MeV です。電子がその反粒子である陽電子と出会うと、二つとも消えて、ちょうど 0.511 MeV ずつの二本のガンマ線が残ります。病院の PET 検査はこのしくみを使っています。
出典: Albert Einstein、「物体の慣性はそのエネルギー含量によるか」、Annalen der Physik 18(1905)、John Stachel 編『アインシュタイン論文選「奇跡の年」の 5 論文』所収 · デイヴィッド・ボダニス『E=mc² 世界一有名な方程式の「伝記」』。
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