根を入れかえる:ラグランジュの定理
1770 年、代数学には二世紀以上も止まったままの問題がありました。2 次方程式には解の公式があり、3 次と 4 次の方程式の解き方も 1545 年にカルダーノが出版していました。ところが 5 次については、だれも何も見つけられませんでした。最高の数学者たちが挑み、4 次までうまくいったどの方法も 5 次でつかえてしまったのです。
ラグランジュは、もう一つ新しい方法を試すことはしませんでした。別の問いを立てたのです。古い方法はなぜうまくいくのか。
この論文で私は、これまでに見いだされた方程式の代数的解法のさまざまな方法を調べ、それらを一般的な原理に帰着させ、それらの方法がなぜ 3 次と 4 次ではうまくいき、それ以上の次数では失敗するのかを、先験的に示すことを目指す。
— ジョゼフ=ルイ・ラグランジュ『方程式の代数的解法についての考察』(1771)
この論文は 200 ページを超え、1770 年と 1771 年にベルリン・アカデミーから出版されました。
根を入れかえる
中心にある考えは、方程式の根でつくった式を見て、根どうしが場所を入れかえたときにその式がどうなるかを調べることです。
2 次から始めましょう。方程式 $x^2+bx+c=0$ の根を $x_1$、$x_2$ とすると、ヴィエト以来
$$x_1+x_2=-b,\qquad x_1x_2=c$$であることが知られています。この二つの式は、$x_1$ と $x_2$ を入れかえても変わりません。だから係数で書けるのです。一方、差 $x_1-x_2$ は変わります。$x_2-x_1$、つまり符号が逆になります。この式は二つの値をとります。けれどもその 2 乗は、ふたたび一つの値しかとらないので、係数で書けます。
$$(x_1-x_2)^2=(x_1+x_2)^2-4x_1x_2=b^2-4c.$$あとは平方根をとるだけです。$x_1-x_2=\pm\sqrt{b^2-4c}$。和と差がわかれば根はすぐに出てきて、結果は 2 次方程式の解の公式になります。公式の $\pm$ は、まさに $x_1-x_2$ がとりうる二つの値の符号なのです。
4 次の秘密
ラグランジュは同じ分析を 3 次と 4 次でもおこないました。4 次では、根を $x_1, x_2, x_3, x_4$ とすると、フェラーリの技法は式
$$t=x_1x_2+x_3x_4$$を見ることにあたります。四つの根の並べかえ方は $4!=24$ 通りありますが、$t$ がとる値は三つだけです。
$$\begin{gathered}x_1x_2+x_3x_4,\\ x_1x_3+x_2x_4,\\ x_1x_4+x_2x_3.\end{gathered}$$この三つの値は、もとの方程式の係数から計算できる係数をもつ3 次方程式の根です。3 次はすでに解けるので、$t$ が求まり、そこから根が求まります。4 次方程式が解けるのは、とる値が四つより少ない根の式が存在するからなのです。
5 次について、ラグランジュは五つの根の式で、とる値の少ないものを探しましたが、見つかりませんでした。彼は問題に解がないのではないかと疑いましたが、証明はできませんでした。イタリアのパオロ・ルフィニが 1799 年に一般の公式は存在しないことのほぼ完全な証明を与え、ノルウェーのニールス・アーベルが 1824 年に決着をつけました。その数年後、エヴァリスト・ガロアはラグランジュの考えを一つの理論全体、群論に育てあげます。
定理
この分析の途中で、ラグランジュは今日彼の名で呼ばれる結果を証明しました。
$n$ 文字の式を、ありうる $n!$ 通りのすべての方法で並べかえるとき、その式がとる異なる値の個数は $n!$ をわり切る。
たとえば四文字の式 $t$ は 3 個の値をとり、3 は 24 をわり切ります。二文字の式 $x_1-x_2$ は 2 個の値をとり、2 は $2!=2$ をわり切ります。
なぜわり切るのでしょうか。式を変えない入れかえは、たとえば $k$ 個の並べかえからなる群をつくります。異なるそれぞれの値は、$n!$ 個の並べかえのうちちょうど $k$ 個によって得られます。だから
$$n!=k\times(\text{値の個数})$$となり、値の個数は $n!$ の約数です。$t$ の場合、それを変えない入れかえは 8 個で、$24=8\times3$ です。
19 世紀になってようやく現れた現代のことばでは、ラグランジュの定理はこう言います。有限群において、部分群の元の個数は群の元の個数をわり切る。代数を学ぶ人ならだれでも最初に習う定理の一つです。ラグランジュは群ということばを使いませんでしたが、考えはすべてそこにありました。
練習問題:四つの根を並べかえるとき、x₁ + x₂ はいくつの値をとるか?
値は異なる二つの根の和、$x_1+x_2$、$x_1+x_3$、$x_1+x_4$、$x_2+x_3$、$x_2+x_4$、$x_3+x_4$ です。6 個あり、6 は 24 をわり切ります。$x_1+x_2$ を変えない入れかえは $24\div6=4$ 個で、何もしない、$x_1$ と $x_2$ を入れかえる、$x_3$ と $x_4$ を入れかえる、その両方をする、の四つです。
練習問題:ちょうど 5 個の値をとる四文字の式はあるか?
ありません。ラグランジュの定理により、値の個数は $4!=24$ をわり切らなければならず、24 の約数は $1, 2, 3, 4, 6, 8, 12, 24$ です。5 はこのリストにないので、どれほど工夫しても、5 個の値をとる四文字の式はつくれません。
出典: Joseph-Louis Lagrange, Réflexions sur la résolution algébrique des équations(1770–1771)、『ラグランジュ全集』第 3 巻所収 · ラグランジュの伝記、MacTutor · Israel Kleiner, A History of Abstract Algebra(2007)。