直角三角形において、直角に対する辺の上の正方形は、直角をはさむ辺の上の正方形の和に等しい。

— ユークリッド『原論』命題 I.47

ギリシャ人よりずっと前、ナイル川の氾濫のたびに畑の境界を引きなおしたエジプトの測量師たちは、縄張り師 と呼ばれていました。言い伝えでは、等間隔に 12 の結び目をつけた縄を使い、それを三辺 3、4、5 の三角形に張ると直角ができたといいます。バビロニア人はもっと多くを知っていました。紀元前 1800 年ごろの粘土板 プリンプトン 322 には、辺が整数の直角三角形がならび、なかには 3 367、3 456、4 825 のような大きなものもあります。

このサイトの旧幾何学講座は、いちばん簡単な例から始めていました。

$$3^2+4^2=9+16=25=5^2,\qquad 6^2+8^2=36+64=100=10^2.$$

エジプト人やバビロニア人に欠けていたのは、この関係が すべての 直角三角形で成り立つという 証明 でした。伝統はそれを紀元前六世紀のピタゴラスに帰していますが、彼の証明は残っていません。私たちがもっている最も古い証明はユークリッドのもので、第一巻の最後から二番目の命題です。(日本ではこの関係を「三平方の定理」とも呼びます。)

風車の証明

$ABC$ を $A$ で直角となる三角形とし、直角をはさむ辺を $AB=c$、$AC=b$、斜辺を $BC=a$ とします。各辺の上に正方形をつくります。できあがった図が風車に似ているので、この証明はその愛称で呼ばれます。アラビアの数学者たちは「花嫁の椅子」と呼びました。

命題 I.47 の図。A から下ろした高さ(点線)が斜辺の上の正方形を二つの長方形に分ける。左の長方形は AB の上の正方形と、右の長方形は AC の上の正方形と面積が等しい。
命題 I.47 の図。A から下ろした高さ(点線)が斜辺の上の正方形を二つの長方形に分ける。左の長方形は AB の上の正方形と、右の長方形は AC の上の正方形と面積が等しい。Euler’s Eyes 作図

ユークリッドの考えは、$A$ を通って $BC$ に垂直な線を引き、$BC$ の上の大きな正方形を二つの長方形に分け、それぞれの長方形が小さな正方形のひとつと面積が等しいことを示すことです。証明に使うのは、すでに証明された二つの事実だけです。

  • I.4:二辺とそのあいだの角がそれぞれ等しい二つの三角形は合同であり、面積も等しい。
  • I.41:平行四辺形と底辺と高さが同じ三角形は、平行四辺形の半分の面積をもつ。

左の長方形については、ユークリッドは $B$ を頂点とする二つの三角形を見ます。一つ目は、$B$、$A$、そして下の正方形の $B$ の真下にある頂点でできる三角形。二つ目は、$B$、$C$、そして $AB$ の上の正方形の、$B$ のとなりにあって $A$ でない頂点でできる三角形です。この二つの三角形は、$AB$ の上の正方形の一辺と $BC$ の上の正方形の一辺という二辺が等しく、そのあいだの角も等しくなっています。どちらも三角形の一つの角に直角を足したものです。I.4 により、面積は等しくなります。

さて I.41 により、一つ目の三角形は左の長方形と底辺も高さも同じなので、その半分の面積をもちます。二つ目は、同じ理由で、$AB$ の上の正方形の半分の面積をもちます。したがって

$$\text{左の長方形}=AB\ \text{の上の正方形}=c^2.$$

反対側でも同じ議論で $\text{右の長方形}=b^2$ となります。足しあわせると、

$$\boxed{a^2=b^2+c^2.}$$

相似を使った短い証明

比例論のあとの第六巻で、ユークリッドは二つ目の証明を与えます。高さ $AH$ は三角形 $ABC$ を、もとの三角形と 相似 な二つの小さな三角形に分けます。$BH=m$、$HC=n$、$m+n=a$ とすると、相似から

$$\frac{c}{a}=\frac{m}{c}\quad\Longrightarrow\quad c^2=am,\qquad\frac{b}{a}=\frac{n}{b}\quad\Longrightarrow\quad b^2=an.$$

足すと $b^2+c^2=a(m+n)=a^2$。これはまさに図の二つの長方形、$am$ と $an$ です。

逆

第一巻の最後の命題 I.48 は逆を証明します。三角形のある辺の上の正方形がほかの二辺の上の正方形の和に等しいならば、その辺に対する角は直角である。縄張り師の縄の根拠はこれです。$3^2+4^2=5^2$ なので、3、4、5 の三角形は 必ず 直角三角形になるのです。

オリヴァー・バーンのカラー版(ロンドン、1847)の命題 I.47。文字のかわりに色と形を使っている。
オリヴァー・バーンのカラー版(ロンドン、1847)の命題 I.47。文字のかわりに色と形を使っている。Oliver Byrne、The First Six Books of the Elements of Euclid(1847)· Wikimedia Commons · パブリックドメイン
練習問題:長さ 5 m のはしごが、足を壁から 1.4 m 離して壁に立てかけてある。はしごは壁のどの高さにふれているか?

はしごが斜辺です。$h^2+1.4^2=5^2$ より $h^2=25-1.96=23.04$、$h=4.8$ m。これは 7、24、25 の三角形を 5 で割った数です。$1.4=\frac75$、$4.8=\frac{24}5$、$5=\frac{25}5$。

練習問題:整数 m > n > 0 について、m² − n²、2mn、m² + n² が直角三角形をつくることを示せ。
$$(m^2-n^2)^2+(2mn)^2=m^4-2m^2n^2+n^4+4m^2n^2=m^4+2m^2n^2+n^4=(m^2+n^2)^2.$$

$m=2$、$n=1$ なら 3、4、5 の三角形。$m=3$、$n=2$ なら 5、12、13。$m=4$、$n=1$ なら 15、8、17。ユークリッドはこの規則を第十巻(命題 X.29 の補題)で証明しており、これですべての原始ピタゴラス数が得られます。

出典: 『原論』命題 I.47 と I.48、D. E. Joyce 版 · Eli Maor、The Pythagorean Theorem: A 4,000-Year History(Princeton、2007)· Elisha S. Loomis、The Pythagorean Proposition(第 2 版、1940)。


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