方程式

$$\sqrt{x+2}=x$$

を解いてみよう。ふつうのやり方は、両辺を 2 乗して根号をはずすことだ。

$$\begin{aligned} \sqrt{x+2}=x\quad&\Longrightarrow\quad x+2=x^2\\ &\Longrightarrow\quad (x-2)(x+1)=0\\ &\Longrightarrow\quad x=2\ \text{または}\ x=-1. \end{aligned}$$

計算はすべて正しい。答えは正しくない。$x=2$ なら $\sqrt{4}=2$ で、方程式は成り立つ。$x=-1$ なら $\sqrt{1}=1$ で、$-1$ ではない。もとの方程式の解は一つなのに、この方法は二つ見つけた。この侵入者はどこから来たのか。

一行に一つの方程式

方程式を解く人は、数で計算しているのではない。方程式の列を書いているのであり、どの方程式も一つ前から得られる。ある行と次の行をつないでいるのは等号ではなく、命題についての主張、「これが正しければ、あれも正しい」である。論理学にはそのための記号が二つある。

  • $P\Rightarrow Q$、「$P$ ならば $Q$」:$P$ が正しいときはいつも $Q$ も正しい。しかし $P$ が正しくなくても $Q$ が正しいことはありうる。
  • $P\Leftrightarrow Q$、「$P$ と $Q$ は同値」:両者はちょうど同じ値について正しい。矢印は両方向に成り立つ。

方程式を解くとき、この違いは決定的だ。どの段階も $\Leftrightarrow$ なら、最後の行の解は最初の行とまったく同じである。ある段階が $\Rightarrow$ だけなら、最後の行には解が余分にあるかもしれない。ある段階が $\Leftarrow$ だけなら、解が足りないかもしれない。

両方向に成り立つ段階

いつでも逆にたどれる段階がある。

段階 なぜ戻れるか
両辺に同じ数を足す 引き戻せばよい
両辺にゼロでない同じ数をかける 割り戻せばよい
式を恒等的に等しい式に置き換える 恒等式は両方向に成り立つ
$x\mapsto x^3$ や $x\mapsto e^x$ のような単射の関数を施す どの結果も一つの値からしか来ない

そうでない段階もある。

段階 何が起こりうるか
両辺を 2 乗する 解が増える:$a=b$ から $a^2=b^2$ が出るが、$a=-b$ でも $a^2=b^2$ は成り立つ
ゼロになりうる式をかける 解が増える:その式の零点
ゼロになりうる式で割る 解が失われる:その式の零点

冒頭の方程式では、2 乗する段階が変装した $\Rightarrow$ だった。方程式 $x+2=x^2$ は「$\sqrt{x+2}$ は $x$ に等しいか、それとも $-x$ に等しいか」という問いであり、$-1$ は後半に答えている。$\sqrt{1}=1=-(-1)$。この侵入者には名前がある。無縁解である。唯一の防ぎ方は、もとの方程式に戻って確かめることだ。

なぜ本は ⇔ と書くのか

第2章では $x+\frac x2=5$ を次のように解いた。

$$x+\frac x2=5\iff\frac{3x}2=5\iff 3x=10\iff x=\frac{10}3.$$

両向きの矢印は飾りではない。どの段階もゼロをかけてもいないし 2 乗してもいない、と言っているのだ。$\iff$ を見た読み手は、確かめは任意だとわかる。$\Rightarrow$ を見たら、確かめは必須だとわかる。警告の役目を果たす記法である。

学校の実際では、矢印はたいてい消え、行はただ積み重ねられる。生徒には安全な段階と危険な段階の違いが見えず、「先生がそう言うから」答えを確かめることを覚える。確かめこそが $\Rightarrow$ の鎖を正しい答えに変えるものだとは知らないまま。

練習:無縁解を見つける

$\sqrt{2x+3}=x$ を解け。2 乗すると($\Rightarrow$):$2x+3=x^2$、$x^2-2x-3=0$、$(x-3)(x+1)=0$、$x=3$ または $x=-1$。確かめる。$x=3$ なら $\sqrt9=3$ で適する。$x=-1$ なら $\sqrt1=1\neq-1$ で無縁解。解は $x=3$ だけである。

練習:ゼロはどこへ行った

ある生徒が $x^3=4x$ を $x$ で割って解いた。$x^2=4$、$x=\pm2$。解が一つ足りない。正しい段階は因数分解で、これは $\Leftrightarrow$ である。$x^3-4x=0\iff x(x^2-4)=0\iff x(x-2)(x+2)=0\iff x\in\{-2,0,2\}$。$x$ で割ったとき、言わないまま $x\neq0$ と仮定しており、ちょうど $x=0$ の場合を失ったのだ。


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