一つの記号、たくさんの「等しい」
ロバート・レコードは 1557 年に $=$ を発明した。理由は簡単で、同じ長さの二本の平行線ほど等しいものはない、というものだった(この話は第1章の演算記号の文章で述べた)。この記号はあまりにうまく広まったので、今ではレコードが想像もしなかった仕事をしている。次の式を見てほしい。
$$3+4=7,\qquad 2x+1=7,\qquad (a+b)^2=a^2+2ab+b^2,$$$$f(x)=x^2,\qquad \tfrac12=\tfrac24.$$記号はどれも同じだ。言っていることは同じではない。
- $3+4=7$ では、等号は結果を記録する。電卓が教える読み方である。
- $2x+1=7$ では、等号は問いを立てる。どの数ならこれが正しくなるか。方程式である。
- $(a+b)^2=a^2+2ab+b^2$ では、等号は法則を述べる。すべての数について成り立つ。恒等式である。
- $f(x)=x^2$ では、等号は名前をつける。ここから先、$f(x)$ は $x^2$ を意味する。定義である。
- $\frac12=\frac24$ では、等号は二つの異なる書き方が同じ数を指していると言う。
この章のあとの文章で、これらの仕事を一つずつ扱う。その前に、これらに共通するものは何かを問うておこう。
等号の三つの法則
紀元前 300 年ごろ、ユークリッドは『原論』の冒頭にいくつかの「公理(共通概念)」を置いた。証明するまでもないほど明らかだと彼が考えた真理である。その第一はこうだ。
同じものに等しいものどうしは、互いに等しい。
— ユークリッド『原論』第1巻、公理1
今日この文は推移律と呼ばれる。$A=B$ かつ $B=C$ ならば $A=C$。ほかの二つと合わせて、どんな等しさにも当てはまる肖像ができる。
| 性質 | 記号で | ことばで |
|---|---|---|
| 反射律 | $A=A$ | どんなものも自分自身に等しい |
| 対称律 | $A=B$ ならば $B=A$ | 天秤にはひいきの側がない |
| 推移律 | $A=B$ かつ $B=C$ ならば $A=C$ | 同じものに等しいものどうしは互いに等しい |
計算を $A=B=C=D$ のようにつなげ、最初の項が最後の項に等しいと言えるのは、この三つの法則のおかげだ。学校の代数はすべてこれに頼っているのに、声に出して言われることはほとんどない。
等号の親戚たち
等号の仕事のどれかが十分に重要になると、数学はそれに専用の記号を与えた。その結果、似た記号の一家ができあがった。それぞれに読み方がある。
| 記号 | 読み方 | 例 | 対称律は成り立つか |
|---|---|---|---|
| $=$ | 等しい | $3+4=7$ | はい |
| $\equiv$ | 恒等的に等しい;合同である | $\sin^2x+\cos^2x\equiv1$;$17\equiv2\pmod5$ | はい |
| $:=$ | と定義する | $f(x):=x^2$ | いいえ:新しい名前はいつも左側 |
| $\approx$ | ほぼ等しい | $\pi\approx3.14$ | はい |
| $\cong$ | 合同である(図形) | $\triangle ABC\cong\triangle DEF$ | はい |
| $\sim$ | 相似である | $\triangle ABC\sim\triangle DEF$ | はい |
| $\Leftrightarrow$ | 同値である(命題) | $2x=6\Leftrightarrow x=3$ | はい |
最後の列に注目しよう。$:=$ は対称ではない。$x^2=:f(x)$ と書くこともできるが、そのときは記号の形が変わり、新しい名前がいつもコロンの隣にくる。そしていかにも無害に見える $\approx$ には、最初の練習問題が示す罠がある。推移律が成り立たないのだ。
規則を破る等号
コンピューター科学を学ぶ人なら誰でも知っていて、わざと対称律を破る等号がある。
$$n^2+n=O(n^2)$$と書くとき、この記号は「せいぜい〜のように増える」を意味する。しかし $O(n^2)=n^2+n$ と書くのは意味をなさないし、$n=O(n^2)$ と $n^2=O(n^2)$ から $n=n^2$ を導く人もいない。オランダの数学者ニコラース・デ・ブラウンは、この使い方を一方通行の等式と呼んだ。本来の記号は「属する」の $\in$ のはずだ。$n^2+n\in O(n^2)$。$=$ は伝統で残っている。
練習:≈ は推移的でない
二つの数の差が $0.05$ 未満のとき「ほぼ等しい」と決めよう。すると $1\approx1.04$、$1.04\approx1.08$ である。しかし $1$ と $1.08$ の差は $0.08$ なので、$1\not\approx1.08$。小さな歩幅でなら、$\approx$ の鎖はどの数からどの数へでも行けてしまう。近似を含む計算では、誤差を一歩ずつ追わなければならないのはこのためだ。$\approx$ を使うたびに、誤差が少しずつたまる。
練習:等号はどの仕事をしているか
(a) $x^2-1=(x-1)(x+1)$。(b) $x^2-1=8$。(c) $g(x)=x^2-1$。(d) $9-1=8$。
(a) 法則を述べている。どの $x$ でも成り立つ恒等式だ。(b) 問いを立てている。$x=3$ と $x=-3$ だけが当てはまる方程式だ。(c) 名前をつけている。関数 $g$ を定義している。(d) 計算の結果を記録している。(b) と (d) がつながっていることに注意しよう。(b) に $x=3$ を代入すると (d) が得られる。解を確かめるとはこういうことだ。