終わらない利息と数 e
年利 100% を払ってくれる気前のいい銀行を想像してください。1 月に 1 円預けると、12 月には 2 円になります。ここで銀行が別の提案をします。年末に 100% 払うかわりに、半年ごとに 50% 払い、前半の利息にも後半に利息がつく。得でしょうか。毎月、毎日、毎秒払ったら?限りなく金持ちになれるでしょうか。
これは、ヤコブ・ベルヌーイが 1683 年ごろ自分に問いかけ、1690 年に『学術紀要』に発表した問題です。帳簿づけの話のようですが、答えは数学で最も重要な数のひとつです。
計算してみる
一年を $n$ 個の等しい期間に分けると、各期間に $\frac{100\%}{n}$ が支払われます。つまり残高は $1+\frac1n$ 倍になります。$n$ 期間ののち、1 円は
$$a_n=\left(1+\frac1n\right)^n$$になります。二期間なら $a_2=1.5^2=2.25$ で、2 より多くなります。期間を増やすと、さらに増えます。
| 利息の支払い | $n$ | 年末の残高 |
|---|---|---|
| 一回 | 1 | 2.000000 |
| 半年ごと | 2 | 2.250000 |
| 四半期ごと | 4 | 2.441406 |
| 毎月 | 12 | 2.613035 |
| 毎日 | 365 | 2.714567 |
| 毎時 | 8 760 | 2.718127 |
残高は増えますが、増え方はだんだん小さくなります。毎月から毎日に変えても、増えるのはわずかです。毎日から毎時では、さらにわずかです。残高は $2.718$ くらいの天井に近づいていくように見えます。
天井がある理由
ベルヌーイは今日の意味での「極限」という言葉をもっていませんでしたが、ニュートンの二項定理 をもっていました。$a_n$ を展開すると、
$$a_n=1+n\cdot\frac1n+\frac{n(n-1)}{2}\cdot\frac1{n^2}+\frac{n(n-1)(n-2)}{2\cdot3}\cdot\frac1{n^3}+\cdots$$各項を整理すると、
$$\begin{aligned}a_n={}&1+1+\frac1{2!}\left(1-\frac1n\right)\\&+\frac1{3!}\left(1-\frac1n\right)\left(1-\frac2n\right)+\cdots\end{aligned}$$$n$ が大きくなると二つのことが起こります。かっこ $\left(1-\frac kn\right)$ は 1 に近づくので、各項は 大きくなり、さらに新しい項が現れ、それもすべて正です。だから $a_n$ は増える一方です。一方、どのかっこも 1 より小さいので、
$$a_n<1+1+\frac1{2!}+\frac1{3!}+\frac1{4!}+\cdots$$この和はかんたんに抑えられます。$3!=6>4$、$4!=24>8$、一般に $k!\geq 2^{k-1}$ なので、
$$a_n<1+\left(1+\frac12+\frac14+\frac18+\cdots\right)=1+2=3.$$ベルヌーイが結論したのはまさにこれです。残高はいつも増えるけれど、2 と 3 のあいだにとどまる。銀行が一年をどれほど細かく分けても、1 円が 3 円になることはありません。増える一方で天井を越えない数列は、ある値に近づくしかありません。
$$\boxed{e=\lim_{n\to\infty}\left(1+\frac1n\right)^n=2.718281828\ldots}$$あらゆる瞬間の利息
上の計算からは、$e$ を直接与える級数も出てきます。
$$e=1+1+\frac1{2!}+\frac1{3!}+\frac1{4!}+\cdots=2+0.5+0.1\overline{6}+0.041\overline{6}+\cdots$$わずか八項で $2.71825$ になります。この級数は $(1+1/n)^n$ よりずっと速く収束します。
年利が任意の $r$ のときも、同じ考え方で $\left(1+\frac rn\right)^n\to e^r$ となります。これが 連続複利 の公式です。元金 $C$ を $t$ 年運用すると $Ce^{rt}$ になります。年利 100% のとき、連続複利で増えるのは元金の $e-1\approx 71.8\%$ で、年一回払いでは 100% です。あらゆる瞬間に利息を払うのはありがたいことですが、魔法ではありません。
練習問題:年利 12% で 1 000 ドルを一年預けると、一回払い、毎月払い、連続払いでそれぞれいくらになるか?
一回払い:$1\,000\cdot1.12=1\,120$ ドル。毎月払いでは月利 $1\%$ なので、$1\,000\cdot1.01^{12}\approx1\,126.83$ ドル。連続払い:$1\,000\cdot e^{0.12}\approx1\,127.50$ ドル。毎月払いと連続払いの差は 70 セントもありません。
練習問題:年利 7% の連続複利で、元金が二倍になるのにどれだけかかるか?
$e^{0.07t}=2$、つまり $0.07t=\ln 2\approx0.693$ となればよいので、$t\approx9.9$ 年です。これが経済学者の「70 の法則」のもとです。二倍になる年数は、およそ 70 をパーセントで表した利率で割った値になります。
出典: Jakob Bernoulli、“Quaestiones nonnullae de usuris”、Acta Eruditorum(1690)· Eli Maor、『不思議な数 e の物語』· ヤコブ・ベルヌーイの伝記、MacTutor。