式の文法:括弧、順序、空白
2019 年、四つの数だけでできた計算が SNS で広まり、何百万もの議論を引きおこしました。
$$8\div2(2+2)=\;?$$半分の人は $16$ と答え、残りの半分は $1$ と答えました。電卓もメーカーによって答えがちがいました。数学の先生たちの意見も分かれました。そしていちばんおもしろいのは、どちらも正しかったことです。それぞれが一つの約束ごとに従っていたのです。
$16$ と答える人は左から右へ読みます。$8\div2=4$、$4\cdot(2+2)=16$。$1$ と答える人は、記号なしで「くっついた」かけ算 $2(2+2)$ をひとかたまりと考え、わり算より先に計算します。$8\div(2\cdot4)=1$。どちらの約束ごとも実際にあり、まじめな本でも使われています。問題は計算ではなく統語論にあります。記号がどう組み合わさるのかがはっきりしない書き方をしてしまったのです。数学者ならこうは書きません。$\frac{8}{2}(2+2)$ か $\frac{8}{2(2+2)}$ と書くでしょう。そうすれば争いは起きなかったはずです。
同じ部品、ちがう組み立て
式は記号の行列ではありません。組み立てであり、組み立て方も意味の一部なのです。比べてみましょう。
$$a+b\cdot c\qquad\text{と}\qquad(a+b)\cdot c.$$部品は同じです。文字が三つ、$+$ が一つ、$\cdot$ が一つ。けれどもふつうの約束では、一つ目はかけ算を先にし、二つ目はかっこがあるのでたし算を先にしなければなりません。$a=2$、$b=3$、$c=4$ とすると、
かっこは不思議な記号です。どんな量も、演算も、対象も表しません。ほかの記号がどう結びつくかを言うだけです。モリスの分類でいえば、純粋に統語論的な記号です。それなのに、結果を変えてしまうのです。
かけ算をたし算より先にするという規則は、自然の法則ではありません。17 世紀から 19 世紀にかけて定着した約束ごとで、デカルトの代数が多項式でかっこを省くようになったころのものです。$3x^2+2x+1$ を $(3\cdot(x^2))+(2\cdot x)+1$ と書きたい人はいません。この約束ごとは、いちばんよく使う式が短くなるようにあるのです。
隠れた木
どんな式にも木の構造があり、式を読むとは、つまるところその木を組み立て直すことです。$2(x+3)^2$ を見てみましょう。
2(x + 3)² の組み立て方(クリックで進む)
- いちばん「内側」から始める:$x+3$。
- 結果を 2 乗する:$(x+3)^2$。高いところの小さな指数は、かっこ全体にかかる。
- $2$ をかける:$2\,(x+3)^2$。左にくっついた $2$ が最後に働く。
次に、部品がほとんど同じ $2x+3^2$ と比べてみましょう。こちらでは $3^2$ が単独で計算され、$2x$ は別の枝で、最後にたし算が二つを結びます。$x=1$ のとき、一つ目の式は $2\cdot16=32$、二つ目は $2+9=11$ になります。
二次元の書き方は、木を見るのに大いに役立ちます。たとえば分数の横線は、変装したかっこです。
$$\frac{x+1}{x-1}$$では、$(x+1)/(x-1)$ と書く必要はありません。上と下という位置が、何と何が組になっているかをすでに示しているからです。高いところにある指数や、下にあるもの全部を横線でおおう根号も同じ働きをします。キーボードの一行の中では、この構造が全部かっこにもどらなければならず、だから表計算ソフトに式を入力するとき、たくさんの人がまちがえるのです。
空白も記号である
この式を見てください:$ab$。$a$ と $b$ のあいだには何の記号もないのに、私たちは「$a$ かける $b$」と読みます。二つのものを並べる並置は、目に見えないかけ算の記号なのです。けれども注意が必要です。$23$ では、$2$ と $3$ の並置は $2\cdot3$ ではなく二十三を意味します。$\sin x$ では、$s$、$i$、$n$ はかけ合わされるのではなく、関数の名前になっています。$f(x)$ では $f$ は $(x)$ にかけられるのではなく、$(x)$ に作用するのですが、$a(x+1)$ では $a$ はかっこにかけられます。二つの記号のあいだの同じ「何もなさ」に、少なくとも四つの意味があり、読む人は、数字か、文字か、関数の名前かという、関わる記号の種類によってどれなのかを判断するのです。
数学の組版に約束ごとがあるのはそのためです。$\sin$、$\log$、$\exp$ のようなよく知られた関数の名前は立体で、変数は斜体で書きます。そうすれば $\sin x$ が $s\cdot i\cdot n\cdot x$ と混同されません。立体と斜体のちがいは印刷の細かな問題に見えますが、じつは統語論なのです。
練習問題:かっこをつける
$2+3\cdot4-1$ は、かっこがなければ $2+12-1=13$ です。どこにかっこをつければ $19$ になるでしょうか。$15$ では?
- $(2+3)\cdot4-1=20-1=19$。
- $(2+3)\cdot(4-1)=5\cdot3=15$。
ほかに $2+3\cdot(4-1)=11$ もあります。同じ記号の並びに四通りの組み立て方があり、結果は $13$、$19$、$15$、$11$ とちがいます。
練習問題:あいまいさをなくす
$8\div2(2+2)$ を分数の横線を使って、それぞれの読み方に合わせて二通りに書き直します。
$$\frac82\,(2+2)=4\cdot4=16\qquad\text{と}\qquad\frac{8}{2(2+2)}=\frac88=1.$$分数の横線は二次元なので、何が上で何が下かについて疑いを残しません。数学者がほとんど $\div$ を使わない理由が、ここにも一つあります。