同じ文字 $f$ と、三つの文。

$$f(x)=x^2,\qquad f(x)=x\cdot x,\qquad f(x)=4.$$

一つめは名前をつける。ここから先、$f$ は 2 乗する関数である。二つめは法則を述べる。どの $x$ についても、$f$ の値は $x$ かける $x$ だ。三つめは問いを立てる。どの $x$ で関数の値が $4$ になるか。答えは $x=2$ または $x=-2$。

三つの記号はまったく同じだ。読み手のすべきことは同じではない。

種類 答える問い それをどう扱うか 例
方程式 どの値で成り立つか 解く $x^2=4$
恒等式 すべての値で成り立つか 証明する $(x-2)(x+2)=x^2-4$
定義 この名前は何を意味するか 受け入れる $n!=1\cdot2\cdots n$

定義には真も偽もない。名づけである。$n!=1\cdot2\cdots n$ を「証明する」のは、誰かの名前がマリアであることを証明するのと同じく意味をなさない。反対に、恒等式は証明しなければならず、方程式は解かなければならない。三つの仕事を取り違える人は、正しいことを間違った相手に対してしている。

知らせようとする記号

何世紀ものあいだに、何人もの数学者がそれぞれの仕事に専用の記号を与えようとした。

  • 恒等式のための $\equiv$。 歴史家フロリアン・カジョリによれば、ベルンハルト・リーマンは 1857 年にはすでに「すべての値について等しい」という意味でこれを使っていた。物理や工学の本には今も現れる。$\sin^2x+\cos^2x\equiv1$。
  • 定義のための $:=$。 コロンは新しい名前の側に置く。$f(x):=x^2$ は「$f(x)$ を $x^2$ と定義する」と読む。この記号はプログラミング言語(そこでは代入を表す)とともに広まり、20 世紀の終わりに数学の本へも入ってきた。
  • $\overset{\text{def}}{=}$ や $\stackrel{\triangle}{=}$。 等号の上に「定義」という語をのせた変種。より明示的だが、あまり使われない。

どれも決定的には勝たなかった。たいていの本は今もすべてに $=$ を書き、文脈に頼っている。「とする」「定義する」「すべての〜について」「解け」といったことばが、記号のしない仕事をしている。統語論が言わないことを、モリスの意味での語用論にまかせる記法の典型的な例である(第2章を参照)。

「新入生の夢」を方程式として読む

代数で最も有名な誤りの一つは、

$$(a+b)^2=a^2+b^2$$

と書くことだ。英語ではあだ名まであり、freshman’s dream、「新入生の夢」と呼ばれる。恒等式としては、この文は誤りだ。$a=b=1$ とすると、左辺は $4$、右辺は $2$ になる。だが、これを方程式として、つまり $a$ と $b$ についての問いとして読むと何が起きるか見てみよう。

$$\begin{aligned} (a+b)^2=a^2+b^2&\iff a^2+2ab+b^2=a^2+b^2\\ &\iff 2ab=0\\ &\iff a=0\ \text{ または }\ b=0. \end{aligned}$$

この方程式には答えがあり、しかもその答えは正確だ。「新入生の夢」が正しいのは、二つの文字のどちらかがゼロのときだけである。等号を問いとして読むことで、誤りが発見に変わり、誤りの大きさが正確に示された。

逆のことも起こる。恒等式 $(x+1)^2-(x-1)^2=4x$ を証明するよう求められた生徒が、「解き」はじめることがある。すべてを片側に移し、整理して、$0=0$ にたどり着き、それをどうしたらよいかわからなくなる。$0=0$ は、この文がすべての $x$ について成り立つというしるしだ。その生徒が解こうとした方程式の解の集合はすべての数である。生徒は気づかないまま恒等式を証明していたのだ。

練習:方程式か、恒等式か、定義か

(a) $(x+1)^2=x^2+2x+1$。(b) $(x+1)^2=9$。(c) $\binom{n}{k}=\frac{n!}{k!\,(n-k)!}$。(d) $x+1=x+2$。

(a) 恒等式。どの $x$ でも成り立つ。(b) 方程式。$x+1=3$ または $x+1=-3$ なので、$x=2$ または $x=-4$。(c) 二項係数の定義(ただし、$\binom nk$ を「部分集合の個数」と定義する本もあり、そのときこの式は定理になる)。(d) 解のない方程式。両辺から $x+1$ を引くと $0=1$ が残る。

練習:√(x²) = x は恒等式か

違う。$x=-3$ とすると、左辺は $\sqrt9=3$、右辺は $-3$ だ。正しい恒等式は $\sqrt{x^2}=|x|$ である。方程式として読むと、$\sqrt{x^2}=x$ は $|x|=x$ となるのはいつかを問うており、答えは「$x\geq0$ のすべて」。解の集合はすべてでも空でもなく、数直線の半分である。


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