光は電磁波である
光は、電気と磁気の現象の原因である同じ媒質の横波からなる、という推論を避けることはほとんどできない。
— ジェームズ・クラーク・マクスウェル「物理的な力線について」(1862)、斜体は原文のまま
1861 年の夏、本から遠く離れたグレンレアで、マクスウェルは渦と小さな歯車の模型を使ってある計算をしました。電気と磁気の力を伝える媒質をゆさぶると、その乱れは波として伝わるはずだ。速さはどれくらいか。計算から出てきた数は、磁石と電荷を使って実験室で測られる二つの定数だけで決まっていました。手もとにはその値がありませんでした。10 月にロンドンに戻って調べてみると、その数は 光の速さ だったのです。
波動方程式
今日の形の方程式で計算をやり直しましょう。電荷も電流もないところでは $\rho=0$、$\mathbf J=0$ で、方程式は
$$\nabla\cdot\mathbf E=0,\qquad\nabla\cdot\mathbf B=0,\qquad\nabla\times\mathbf E=-\frac{\partial\mathbf B}{\partial t},\qquad\nabla\times\mathbf B=\mu_0\varepsilon_0\frac{\partial\mathbf E}{\partial t}$$になります。三本目の回転をとると、四本目を使って
$$\nabla\times(\nabla\times\mathbf E)=-\frac{\partial}{\partial t}(\nabla\times\mathbf B)=-\mu_0\varepsilon_0\frac{\partial^2\mathbf E}{\partial t^2}.$$左辺では、ベクトルの恒等式 $\nabla\times(\nabla\times\mathbf E)=\nabla(\nabla\cdot\mathbf E)-\nabla^2\mathbf E$ が成り立ち、一本目の方程式から最初の項は 0 です。残るのは
$$\boxed{\nabla^2\mathbf E=\mu_0\varepsilon_0\,\frac{\partial^2\mathbf E}{\partial t^2}.}$$これは 波動方程式 で、ダランベールの振動する弦や音と同じものです。波動方程式 $\nabla^2u=\frac1{v^2}\frac{\partial^2u}{\partial t^2}$ では、波の速さは $v$ です。したがってここでは
$$v=\frac{1}{\sqrt{\mu_0\varepsilon_0}}.$$その数
今日の値、$\varepsilon_0\approx8.854\times10^{-12}$ F/m と $\mu_0\approx1.257\times10^{-6}$ H/m を使うと、
$$v=\frac1{\sqrt{8.854\times10^{-12}\cdot1.257\times10^{-6}}}\approx2.998\times10^8\ \text{m/s}=299\,792\ \text{km/s}.$$1862 年、マクスウェルは、ドイツのヴィルヘルム・ヴェーバーとルドルフ・コールラウシュが 1856 年にライデン瓶の放電で測った定数を使い、秒速 310 740 km を得ました。光の速さの最良の測定は、フランスのイポリット・フィゾーが 1849 年に歯車と 8 km 先の鏡で行ったもので、秒速 314 858 km でした。一方は磁石で、もう一方は鏡で、まったく関係のない道すじで得られた二つの数が、1% あまりしかちがわなかったのです。冒頭の引用の一文は、そこから来ています。マクスウェルはそれを斜体で書きました。
波の姿
いちばん簡単な解は、$x$ 方向に進む平面波です。
$$\mathbf E=E_0\cos(kx-\omega t)\,\hat{\mathbf y},\qquad\mathbf B=\frac{E_0}{c}\cos(kx-\omega t)\,\hat{\mathbf z},$$ここで $\omega=ck$ です。電場は $y$ 方向に、磁場は $z$ 方向に振動し、どちらも波の進む向きに垂直です。マクスウェルが予言したとおり、波は 横波 なのです。光が 偏光 できるのはそのためで、それは十八世紀から知られていました。磁場は電場の $c$ 分の 1 の大きさで、二つは同じ位相でいっしょに振動します。
ヘルツとスペクトル
方程式には振動数を制限するものは何もありませんでした。目に見える光が一秒に約 500 兆回振動する電磁波なら、もっと遅いものも速いものも、あらゆる振動数の波があるはずです。マクスウェルはそれを見ることなく 1879 年に亡くなりました。1887 年、ドイツのハインリヒ・ヘルツは回路で火花を飛ばし、部屋の反対側に置いた導線の輪に誘導された火花を検出しました。それは長さ数メートルの電磁波で、反射し、屈折し、光の速さで進みました。何の役に立つのかときかれて、ヘルツは何の役にも立たない、マクスウェルが正しいことを示すだけだと答えました。七年後、マルコーニが無線通信を始めました。
今日では $c=\lambda f$ なので、ひとつの計算でスペクトル全体が読めます。
| 波 | 振動数 | 波長 |
|---|---|---|
| FM ラジオ | 100 MHz | 3 m |
| マイクロ波と Wi-Fi | 2.45 GHz | 12 cm |
| 緑の光 | $6\times10^{14}$ Hz | 500 nm |
| X 線 | $3\times10^{18}$ Hz | 0.1 nm |
練習問題:1 000 kHz の AM ラジオ局の波長はいくらか?
$\lambda=\frac cf=\frac{3\times10^8}{10^6}=300$ m。だから AM ラジオのアンテナは巨大な塔なのです。高さはふつう波長のかなりの部分、数十メートルあります。
練習問題:650 nm の赤いレーザー。振動数はいくらか。光が 1 メートル進むあいだに、場は何回振動するか?
$f=\frac c\lambda=\frac{3\times10^8}{650\times10^{-9}}\approx4.6\times10^{14}$ Hz。1 メートルには $\frac{1}{650\times10^{-9}}\approx154$ 万の波長がおさまります。そのあいだに場は 150 万回以上振動するのです。
出典: James Clerk Maxwell、“On physical lines of force”、第 III 部、Philosophical Magazine 23(1862)· Heinrich Hertz、Electric Waves(1893)· 『ファインマン物理学』第 II 巻第 20 章。
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