ニュートンとライプニッツの微積分は、曲線のいちばん高い点を見つけることができます。導関数がゼロになるところです。けれども、別の種類の問いもあります。二点を結ぶいちばん短い道は何か。玉がいちばん速くすべり下りるのは、どんな形のすべり台か。ぶら下がった鎖はどんな曲線になるか。こうした問いでは、答えは数ではなく、無数にありうる曲線のなかから選ばれる、曲線まるごとです。

最速降下線

1696 年、ヨハン・ベルヌーイはヨーロッパの数学者たちに挑戦状を出しました。二点 $A$ と $B$ があり、$B$ は $A$ より低いけれども真下ではない。玉が摩擦なしに自分の重さだけですべるとき、$A$ から $B$ へいちばん短い時間で行けるのはどの曲線か。この問題の名前はギリシア語の brachistos(もっとも短い)と chronos(時間)からきています。

直線はいちばん短い道ですが、いちばん速い道ではありません。道が長くなっても、はじめに急に下って早くスピードを得たほうが得なのです。挑戦に答えたのは、ヨハン、その兄ヤコブ、ライプニッツ、ロピタル、そしてだれもがニュートンだと見抜いた匿名の筆者でした。答えはサイクロイド、転がる車輪の一点が描く曲線です。

どの解き方も、それぞれちがう巧妙なわざでした。たとえばヨハンは、玉を、だんだん密度の小さくなるガラスの層を通りぬける光線と考え、屈折の法則を使いました。足りないのは一般的な方法でした。

オイラーの方法

オイラーは何年もその方法を探し、1744 年に『極大または極小の性質をもつ曲線を見いだす方法』という本で発表しました。考え方は幾何学的でした。曲線を辺の多い多角形に置きかえ、頂点を一つだけ動かして、最適にしたい量への影響を見るのです。うまくいきましたが、計算は長く、問題ごとに専用の図が必要でした。

1755 年の手紙

1755 年 8 月 12 日、オイラーのもとに、トリノの無名の 19 歳から手紙が届きました。ラグランジュは別のやり方を提案していました。頂点を一つ動かすかわりに、曲線全体を一度に変化させるのです。$y(x)$ が求める曲線なら、彼はとなりの曲線

$$y(x)+\delta y(x)$$

を考えました。ここで $\delta y$ は小さなずれで、端点 $A$ と $B$ は固定されているので両端ではゼロです。ギリシア文字の d である $\delta$ が新しい記号でした。ライプニッツの $d$ が変数の変化を表すように、$\delta$ は関数の変化を表します。

こうした問いの多くは、積分

$$J=\int_a^b F(x,y,y')\,dx$$

をできるだけ小さく、あるいは大きくすることを求めます。$F$ は点の位置、曲線の高さ、その傾きによって決まります。たとえば曲線の長さは

$$J=\int_a^b\sqrt{1+y'^2}\,dx$$

です。

方程式

ラグランジュの計算は三つのステップにおさまります。第一に、積分の変化は、$y$ と $y'$ の変化がそれぞれ引き起こす変化の和です。

$$\delta J=\int_a^b\left(\frac{\partial F}{\partial y}\,\delta y+\frac{\partial F}{\partial y'}\,\delta y'\right)dx.$$

第二に、$\delta y'$ は $\delta y$ の導関数なので、部分積分で微分をもう一方の因子に移せます。$\delta y$ は両端でゼロなので、境界の項は消えます。

$$\delta J=\int_a^b\left(\frac{\partial F}{\partial y}-\frac{d}{dx}\frac{\partial F}{\partial y'}\right)\delta y\,dx.$$

第三に、その曲線が最良なら、どんなずれ $\delta y$ に対しても $\delta J$ はゼロでなければなりません。それが可能なのは、かっこの中がすべての点でゼロのときだけです。

$$\boxed{\ \frac{\partial F}{\partial y}-\frac{d}{dx}\frac{\partial F}{\partial y'}=0\ }$$

これがオイラー=ラグランジュ方程式です。オイラーは多角形の道すじですでにこれを見つけていました。ラグランジュは図をまったく使わず、どんな $F$ にも通用する計算でここにたどりついたのです。あらゆる曲線のなかから一本を見つける問題は、微分方程式を解く問題に変わりました。

いちばん短い道

試してみましょう。長さの場合、$F=\sqrt{1+y'^2}$ は $y$ をふくまないので $\frac{\partial F}{\partial y}=0$ となり、方程式は

$$\begin{aligned}&\frac{d}{dx}\left(\frac{y'}{\sqrt{1+y'^2}}\right)=0\\ &\Longrightarrow\quad \frac{y'}{\sqrt{1+y'^2}}=\text{一定}\end{aligned}$$

と言っています。この分数が一定なら $y'$ も一定です。傾きはけっして変わらず、曲線は直線です。だれもが知っていたことですが、いまやそれは計算から出てくる定理になりました。同じ方法で、最速降下線からはサイクロイドが、ぶら下がった鎖からは懸垂線が、長さが決まっていて最大の面積を囲む曲線からは円が得られます。

等周問題についてのあなたの解析的な解法は、私の見るかぎり、この分野で望みうるすべてをふくんでいます。最初の試みからほとんど私ひとりが取り組んできたこの理論が、あなたによって最高の完成にまで高められたことを、私はこの上なくうれしく思います。

— レオンハルト・オイラー、ラグランジュへの手紙(1759 年 10 月 2 日)

1756 年、オイラーはベルリン・アカデミーでラグランジュの方法を紹介し、新しい分野に名前をつけました。calculus variationum、つまり変分法です。すでにヨーロッパでもっとも有名な数学者だったオイラーは、栄誉の一部を無名の若者にゆずったのです。ラグランジュはそれを決して忘れませんでした。

練習問題:(0, 0) と (1, 2) を結び、y′² の積分を最小にする曲線は?

$F=y'^2$ とすると、$\frac{\partial F}{\partial y}=0$、$\frac{\partial F}{\partial y'}=2y'$ です。方程式から $\frac{d}{dx}(2y')=0$、つまり $y''=0$ となり、曲線は直線 $y=cx+d$ です。端点から $d=0$、$c=2$ となり、答えは $y=2x$。最小値は $\int_0^1 2^2\,dx=4$ です。

練習問題:F = y′² − y² からはどんな曲線が出てくるか?

今度は $\frac{\partial F}{\partial y}=-2y$、$\frac{\partial F}{\partial y'}=2y'$ です。方程式は $-2y-2y''=0$、つまり

$$y''=-y$$

となります。解は $y=A\cos x+B\sin x$。これはばねの方程式です。偶然ではありません。$y'^2$ は運動のエネルギーの、$y^2$ はばねのエネルギーの役を演じているのです。これが次の記事の出発点です。

出典: ラグランジュの伝記、MacTutor · Herman H. Goldstine, A History of the Calculus of Variations from the 17th through the 19th Century(1980)· Craig Fraser, “J. L. Lagrange’s Early Contributions to the Principles and Methods of Mechanics”, Archive for History of Exact Sciences(1983)。


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