ベルヌーイ数:千個のべき乗を七分で足す
この表の助けを借りて、最初の千個の数の十乗を足すと 91 409 924 241 424 243 424 241 924 242 500 になることを、私は四半時間の半分もかからずに見つけた。
— ヤコブ・ベルヌーイ『推測術』(1713)第二部
少年 ガウス は、最初の数と最後の数を組にして、1 から 100 までの和を数秒で出したといわれます。$1+2+\cdots+n=\frac{n(n+1)}2$ です。平方や立方の和にも、アルキメデスやアラビアの数学者のころから知られた公式があります。
$$\begin{aligned}1^2+2^2+\cdots+n^2&=\frac{n(n+1)(2n+1)}6,\\ 1^3+2^3+\cdots+n^3&=\left(\frac{n(n+1)}2\right)^2.\end{aligned}$$では四乗、五乗、十乗は?十七世紀には何人もの数学者が、こうした公式をひとつずつ求めてページを埋めていました。フランスのイスマエル・ブイヨーは 1682 年に分厚い本を出しましたが、苦心のすえに六乗までしか届きませんでした。ヤコブ・ベルヌーイは、すべて を与える規則を見つけたのです。
表
『推測術』の第二部で、ヤコブは公式を上から下へ並べ、じっくりながめました。
$$\begin{aligned}\sum_{k=1}^n k&=\tfrac12n^2+\tfrac12n\\ \sum_{k=1}^n k^2&=\tfrac13n^3+\tfrac12n^2+\tfrac16n\\ \sum_{k=1}^n k^3&=\tfrac14n^4+\tfrac12n^3+\tfrac14n^2\\ \sum_{k=1}^n k^4&=\tfrac15n^5+\tfrac12n^4+\tfrac13n^3-\tfrac1{30}n\\ \sum_{k=1}^n k^5&=\tfrac16n^6+\tfrac12n^5+\tfrac5{12}n^4-\tfrac1{12}n^2\end{aligned}$$規則があります。$m$ 乗の和はいつも $m+1$ 次の多項式です。最初の係数は、積分 $\int_0^n x^m\,dx=\frac{n^{m+1}}{m+1}$ と同じく $\frac1{m+1}$。二番目はいつも $\frac12$。そのあとの係数は 二項式 $(n+1)^{m+1}$ の係数に、ある決まった数をかけたもののように見えます。
不思議な数
ヤコブは、今日 $B_0,B_1,B_2,\dots$ と書かれ ベルヌーイ数 と呼ばれる数の列がひとつあれば、すべての公式を一度に書けることに気づきました。
$$\boxed{\sum_{k=1}^n k^m=\frac1{m+1}\sum_{j=0}^{m}\binom{m+1}{j}B_j\,n^{m+1-j}}$$$B_j$ はどう求めるのでしょう。かんたんなこつがあります。公式は $n=1$ でも成り立たなくてはならず、そのとき和はただの $1^m=1$ です。$n=1$ とおくと $n$ のべき乗はすべて 1 になり、
$$\sum_{j=0}^{m}\binom{m+1}{j}B_j=m+1$$が残ります。$B_0=1$ から始めると、$m$ の値ごとに次の数が出てきます。
- $m=1$:$1+2B_1=2$、よって $B_1=\frac12$。
- $m=2$:$1+3\cdot\frac12+3B_2=3$、よって $B_2=\frac16$。
- $m=3$:$1+4\cdot\frac12+6\cdot\frac16+4B_3=4$、よって $B_3=0$。
- $m=4$:$1+5\cdot\frac12+10\cdot\frac16+0+5B_4=5$、よって $B_4=-\frac1{30}$。
続けると $B_6=\frac1{42}$、$B_8=-\frac1{30}$、$B_{10}=\frac5{66}$ で、1 より大きい奇数番目はすべて 0 です。これらの数には目に見える規則がありません。$B_{12}=-\frac{691}{2730}$ で、そこから先は急速に大きくなります。
七分
この列があれば、十乗の和の公式はすぐに出ます。
$$\begin{aligned}\sum_{k=1}^n k^{10}={}&\tfrac1{11}n^{11}+\tfrac12n^{10}+\tfrac56n^9-n^7\\&+n^5-\tfrac12n^3+\tfrac5{66}n.\end{aligned}$$$n=1\,000$ では、どの項も 10 のべき乗にかんたんな分数をかけたものです。最初の項は $\frac{10^{33}}{11}=90\,909\,090\ldots$、二番目は $5\cdot10^{29}$、三番目は $\frac{10^{27}\cdot5}6$、という具合です。これらを足すのは、桁をそろえるだけの作業です。引用の皮肉はここから来ています。ブイヨーが本を一冊まるごと使ってもできなかった計算を、ヤコブは「四半時間の半分」、つまり七分ほどでやってのけたのです。
なぜうまくいくのか
すべての背後にある考えは 差分 です。$F(n)=\sum_{k=1}^n k^m$ なら $F(n)-F(n-1)=n^m$ です。ところで $F$ が $m+1$ 次の多項式なら、差分 $F(n)-F(n-1)$ は $m$ 次の多項式です。だから公式を探すことは、差分が $n^m$ になる多項式を探すことであり、これは導関数が $x^m$ になる関数を探すことの離散版です。ベルヌーイ数は、和が積分からどれだけずれるかを測っているのです。
和と積分のあいだのこの橋は、1735 年ごろオイラーとマクローリンによって、二人の名を冠した公式に仕上げられ、その各項にベルヌーイ数が現れます。1843 年、エイダ・ラブレスは、チャールズ・バベッジの解析機関でベルヌーイ数を計算するアルゴリズムを書きました。これは最初に公表されたコンピュータ・プログラムとされています。
練習問題:公式を使って、1 から 10 までの四乗の和を確かめよ。
$m=4$ のとき、$\sum k^4=\frac15n^5+\frac12n^4+\frac13n^3-\frac1{30}n$。$n=10$ を代入すると
$$20\,000+5\,000+333.\overline3-0.\overline3=25\,333.$$足して確かめます:$1+16+81+256+625+1\,296+2\,401+4\,096+6\,561+10\,000=25\,333$。
練習問題:立方の和が、数の和の二乗になるのはなぜか?
表より $\sum k^3=\frac14n^4+\frac12n^3+\frac14n^2=\frac{n^2(n^2+2n+1)}4=\frac{n^2(n+1)^2}4$ で、これは $\left(\frac{n(n+1)}2\right)^2$ です。たとえば $1^3+2^3+3^3+4^3=100=(1+2+3+4)^2$。$n=100$ なら立方の和は $5\,050^2=25\,502\,500$ です。
出典: Jakob Bernoulli、The Art of Conjecturing、第二部第 3 章、Edith Dudley Sylla 訳(Johns Hopkins、2006)· Donald E. Knuth、“Johann Faulhaber and sums of powers”、Mathematics of Computation 61(1993)· 関孝和の伝記、MacTutor。