ソフィー・ジェルマンの恒等式:素数に見えるものを因数分解する
素数に見えて、そうでない数があります。たとえば 629 は偶数でも、一の位が 5 でも、3 の倍数でもありません。けれども $629=5^4+4$ で、この形が正体をあかします。ソフィー・ジェルマンの名がついた恒等式で因数分解できるのです。
恒等式
どんな数 $a$、$b$ についても、
$$\begin{aligned}a^4+4b^4={}&\left(a^2+2b^2+2ab\right)\\&\times\left(a^2+2b^2-2ab\right).\end{aligned}$$これを見つけるこつは、2 次方程式の解の公式のときと同じ、平方完成です。$a^4+4b^4$ は $a^2+2b^2$ の 2 乗にほとんど等しく、足りないのは真ん中の項 $4a^2b^2$ だけです。その項を足して引くと、
$$\begin{aligned}a^4+4b^4&=\left(a^4+4a^2b^2+4b^4\right)-4a^2b^2\\&=\left(a^2+2b^2\right)^2-(2ab)^2.\end{aligned}$$これで二つの平方の差になったので、$u^2-v^2=(u+v)(u-v)$ で仕上がりです。
例では $a=5$、$b=1$ として、
$$5^4+4=(25+2+10)(25+2-10)=37\cdot17=629.$$素数に見えたもの
この恒等式は、無害に見える多くの数が合成数であることを一度に示します。たとえば $n>1$ なら $n^4+4$ はいつも合成数です。$a=n$、$b=1$ とすれば、二つの因数 $n^2+2n+2$ と $n^2-2n+2$ はどちらも 1 より大きいからです。$n=1$ だけは例外で、そのとき二つめの因数は $1$ になり、$1^4+4=5$ は素数です。
もっと意外な例は 2 のべきから出てきます。数 $2^{10}+1=1025$ は $1+4\cdot4^4$ と書けるので、$a=1$、$b=4$ として、
$$2^{10}+1=(1+32+8)(1+32-8)=41\cdot25.$$$2^{4k+2}+1$ の形の数に対するこの種の因数分解は、19 世紀に巨大な数を割るのに使われました。1869 年、フランスのフォルチュネ・ランドリーは 18 けたの数 $2^{58}+1$ を手計算で因数分解しました。まもなくレオン=フランソワ=アントワーヌ・オーリフイユは、ソフィー・ジェルマンの恒等式を使えば最初の分解が一行ですむことを示しました。
練習問題:3⁴ + 4 · 2⁴ = 145 を因数分解せよ
$a=3$、$b=2$ とすると、$a^2+2b^2=9+8=17$、$2ab=12$。よって $145=(17+12)(17-12)=29\cdot5$。
練習問題:1 より大きいすべての奇数 n について、n⁴ + 4ⁿ が合成数であることを示せ
$n$ が奇数なら $n=2k+1$ で、$4^n=4\cdot4^{2k}=4\cdot\left(2^k\right)^4$ です。$a=n$、$b=2^k$ とすると、恒等式から
$$\begin{aligned}n^4+4^n={}&\left(n^2+2^{2k+1}+n\,2^{k+1}\right)\\&\times\left(n^2+2^{2k+1}-n\,2^{k+1}\right).\end{aligned}$$二つめの因数は $(n-2^k)^2+2^{2k}$ で、$n>1$ なら 1 より大きくなります。よってこの数は合成数です。$n=545$ とすれば、オリンピックの問題の答えになります。($n$ が偶数なら、$n^4+4^n$ は 2 より大きい偶数なので、やはり合成数です。)
出典: ソフィー・ジェルマンの伝記、MacTutor · Leonard E. Dickson, History of the Theory of Numbers, vol. 1(1919)、$a^n\pm b^n$ の因数分解の章。