ラグランジュ点:重力がつり合う場所
2021 年 12 月 25 日、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を積んだロケットがフランス領ギアナから打ち上げられました。望遠鏡はハッブルのように地球をまわる軌道には入れられませんでした。一か月かけて、ここから 150 万キロメートル離れた、いつも太陽と反対側にある宇宙の何もない一点まで旅をして、そこにとどまったのです。その点の住所は、ラグランジュが 1772 年に書いた受賞論文から出てきます。それは L2 と呼ばれています。
三つの天体
ニュートンは、引き合う二つの天体、たとえば太陽と一つの惑星の運動を完全に解きました。どちらも楕円を描きます。三つの天体、たとえば太陽、地球、月になると、すべてがややこしくなります。それぞれの天体がほかの二つを引っぱり、運動は混沌としたものになりえます。18 世紀の数学者たちはそれがかんたんではないことを知っており、パリ科学アカデミーは何度もこの問題を懸賞の課題にしました。
1772 年、賞はオイラーとラグランジュに分けて与えられました。ラグランジュの論文『三体問題についての試論』は一般解を見つけませんでした。実際、公式の形の一般解は存在しないことを、のちに 1890 年にポアンカレが示します。けれども、驚くべきものを見つけました。三つの天体が剛体のようにいっしょに回転し、それらがつくる図形の形がまったく変わらない、特殊解です。
そうなる方法は二通りあります。三つの天体が一直線に並ぶ場合で、これはオイラーが 1767 年にすでに見つけていました。もう一つは、大きさは何でもよい正三角形の頂点にあって、重心のまわりを回る場合です。この二つめがラグランジュの発見でした。
五つの点
三つの天体のうち一つがとても小さいとき、たとえば太陽と地球の近くの宇宙船のようなとき、これらの解は宇宙空間の五つの場所になります。そのどれかに置かれた宇宙船は、地球といっしょに太陽のまわりを回り、二つの天体に対していつも同じ位置を保ちます。
- L1 は地球と太陽のあいだにあり、地球の引力が太陽の引力を少し打ち消すところです。
- L2 は地球の向こう側にあり、二つの引力が足し合わされるところです。
- L3 は太陽の向こう側にあり、地球より少し遠くにあります。
- L4 と L5 は正三角形の頂点です。
L2 の計算
なぜ L2 は 150 万キロメートル先にあって、ほかの場所ではないのでしょうか。地球の外側に距離 $r$ だけ離れた物体は、太陽から $R+r$ の距離にあります。$R$ は地球と太陽の距離です。地球といっしょに回るには、地球と同じ時間、つまり一年でひと回りしなければなりません。太陽から遠いところでは、太陽の引力だけではそれに足りません。同じ向きに引っぱる地球の引力が、足りない分をおぎなうのです。
引力の合計と、曲がって進むのに必要な力が等しいという式を書き、$r$ が $R$ よりずっと小さいことを使うと、かんたんな公式にたどりつきます。
$$r\approx R\,\sqrt[3]{\frac{m}{3M}}.$$ここで $m$ は地球の質量、$M$ は太陽の質量です。地球の質量は太陽のおよそ $3\times10^{-6}$ なので、
$$\begin{aligned}r&\approx R\,\sqrt[3]{10^{-6}}=\frac{R}{100}\\&\approx\frac{1.5\ \text{億 km}}{100}\\&=150\ \text{万 km}.\end{aligned}$$L1 はこちら側の同じ距離にあります。望遠鏡をどこにとめるかを決めるために、今日でも紙と鉛筆でできる、ラグランジュの計算です。
トロヤ群
L4 と L5 はちがいます。19 世紀、イギリスのエドワード・ラウスは、大きいほうの天体の質量が二つめのおよそ 25 倍以上なら、この二点が谷底の玉のように安定であることを示しました。太陽の質量は木星のおよそ 1047 倍なので、そこには何十億年も閉じこめられたものが集まっているはずです。
1906 年、ドイツのハイデルベルクの天文学者マックス・ヴォルフは、木星の軌道上でちょうど木星の 60° 前方にある小惑星を見つけました。彼はそれを『イーリアス』のギリシアの英雄にちなんでアキレスと名づけました。続いて見つかったものにもトロイア戦争のほかの英雄たちの名前がつけられ、このグループはトロヤ群小惑星と呼ばれるようになりました。今日では 1 万個以上が知られています。慣例では、L4 のものにはギリシア側、L5 のものにはトロイア側の名前をつけますが、規則ができる前に名づけられた例外が二つあります。トロイア人ヘクトルはギリシアの陣営に、ギリシア人パトロクロスはトロイアの陣営にいるのです。
2021 年、NASA は木星のトロヤ群をいくつも訪れる探査機ルーシーを打ち上げました。名前は有名な人類の化石にちなんでおり、その化石はビートルズの歌にちなんで名づけられたものです。トロヤ群は惑星ができた時代の名残りで、ラグランジュが紙とインクで見つけた点にしまわれているのです。
練習問題:地球–月系の L1 点は月からどれくらい離れているか?
月の質量は地球のおよそ $0.0123$ 倍で、距離は $R\approx384\,400$ km です。公式から、
$$r\approx384\,400\cdot\sqrt[3]{\frac{0.0123}{3}}\approx384\,400\cdot0.160\approx61\,500\ \text{km}.$$正確な値はおよそ $58\,000$ km です。ちがいは近似 $r\ll R$ からきています。地球にくらべて月が重すぎるので、ここではその近似があまりよくないのです。
練習問題:地球のトロヤ群は太陽と地球からどれくらい離れているか?
L4 と L5 では三つの天体が正三角形をつくるので、二辺はどちらも地球と太陽の距離と同じ、およそ 1.5 億 km、つまり 1 天文単位です。地球には実際に少なくとも二つのトロヤ群小惑星が知られています。2010 TK7 と 2020 XL5 で、どちらも L4 にあります。
出典: Joseph-Louis Lagrange, Essai sur le problème des trois corps(1772)、『ラグランジュ全集』第 6 巻所収 · ラグランジュの伝記、MacTutor · What is a Lagrange Point?, NASA。