すべての有限ゲームには均衡点がある。

— ジョン・ナッシュ、博士論文「非協力ゲーム」(1950)

ゲームによっては、各プレイヤーが決まった手を選ぶかぎり、均衡がまったくないものがあります。いちばん簡単なのは指の偶奇当てです。アナは「偶数」、ブルーノは「奇数」に賭け、それぞれ指を一本か二本出します。合計が偶数ならアナが 1 点、奇数ならブルーノが 1 点を得ます。各自の選択を指「一本」か「二本」にしぼると、利得は次のとおりです。

アナ / ブルーノ 1 本 2 本
1 本 (1, −1) (−1, 1)
2 本 (−1, 1) (1, −1)

四つの組み合わせを調べてみましょう。どの場合も、負けた側が手を変えれば得をします。決まった手では均衡はありません。もっともな話です。いつも同じ手を出す人は、相手に気づかれたとたんに負けるのです。

くじを引くのが最善の戦略

抜け道は混ぜることです。ある確率で、でたらめに選ぶのです。混合戦略とは、手の上の確率分布のことです。アナは確率 $p$ で指を 1 本、ブルーノは確率 $q$ で 1 本出し、互いに独立にくじを引くとします。

アナが 1 本出すと、期待利得は $q\cdot1+(1-q)\cdot(-1)=2q-1$。2 本出すと $q\cdot(-1)+(1-q)\cdot1=1-2q$ です。アナが二つの手を混ぜてもよいと思うのは、両方が同じ利得をもたらすとき、つまりブルーノがアナを無差別にするときだけです。

$$2q-1=1-2q\quad\Longrightarrow\quad q=\frac12.$$

同じ理由で、ブルーノが混ぜるのは $p=\frac12$ のときだけです。ただ一つの均衡は、各自が 50% の確率で指を 1 本か 2 本出すことです。この混合に対しては、純粋でも混合でも、どんな戦略も相手に 0 より大きい期待利得を与えません。

ナッシュの定理

これが 1950 年の博士論文の大きな結果です。プレイヤーの数も手の数も有限なゲームには、混合戦略を許せば、ナッシュ均衡が少なくとも一つある。

証明には不動点定理を使います。混合戦略の各組み合わせに対して、各プレイヤーが自分の混合を利得の高い手のほうへ少しずらした別の組み合わせを作ります。これで、組み合わせの集合からそれ自身への連続関数が決まります。この集合は穴のない球のようなもので、ブラウワーの定理によれば、球からそれ自身へのどんな連続関数にも不動点、つまり関数が動かさない組み合わせがあります。動かない点とは、まさにだれも変えたくない組み合わせ、すなわち均衡です。

定理は均衡が存在することを保証しますが、それがただ一つだとも、計算しやすいとも言っていません。今日では、大きなゲームでナッシュ均衡を見つけることは、計算の上できわめて難しい問題になりうることが知られています。

PK

混合戦略のいちばん有名な例はスタジアムで起こります。PK では、キッカーがコースを選び、ゴールキーパーはボールを見る前に跳ばなければなりません。右利きのキッカーにとって得意なコースは自分の左、つまりキーパーの右です。ゴールの確率が次のとおりだとしましょう。

キッカー / キーパー キーパーが得意コースへ跳ぶ キーパーが反対へ跳ぶ
得意コースへ蹴る 60% 95%
反対へ蹴る 90% 70%

数字は丸めてありますが、ヨーロッパのサッカーの実際のデータに近いものです。キーパーが逆に跳べば、キッカーはまず外しません。得意コースはいちばん蹴りやすいコースですが、キーパーが方向を読んだときにいちばん止められやすいコースでもあります。

キッカーが確率 $p$ で得意コースへ蹴るとき、二つの跳び方が同じゴール確率を与えれば、キーパーは無差別になります。

$$0.60p+0.90(1-p)=0.95p+0.70(1-p)\quad\Longrightarrow\quad0.20=0.55p\quad\Longrightarrow\quad p\approx0.36.$$

キーパーが確率 $q$ で得意コースへ跳ぶとき、キッカーが無差別になる条件は

$$0.60q+0.95(1-q)=0.90q+0.70(1-q)\quad\Longrightarrow\quad0.25=0.55q\quad\Longrightarrow\quad q\approx0.45.$$

均衡では、キッカーが得意コースへ蹴るのは 36% だけ、キーパーがそちらへ跳ぶのは 45% です。ゴールの確率は約 79% になります。理由はこうです。キーパーが方向を読んだとき、得意コースのほうが止めやすく、ゴール率は 60% 対 70% です。そこでキッカーは反対のコースを多めに使って埋め合わせます。しかしいつも反対に蹴るわけにはいきません。そうすればキーパーはそちらにしか跳ばなくなるからです。

練習問題:指の偶奇当てで、ブルーノが確率 0.8 で指を 1 本出すとき、アナの最適な応じ方は何か。

1 本出すと、アナの平均利得は $2(0.8)-1=0.6$。2 本出すと $-0.6$ です。アナはいつも 1 本出すべきです。50% 以外の混合は、どれもつけこまれます。

練習問題:じゃんけんのナッシュ均衡は何か。

対称性から、各自が三つの手をそれぞれ確率 $\frac13$ で選びます。この混合に対しては、どの手も勝ち、あいこ、負けが同じ確率 $\frac13$ で起こり、期待利得は 0 です。もしだれかがグーを $\frac13$ より多く出せば、相手はパーを多く出すようになります。

出典: John F. Nash、“Non-cooperative games”、Annals of Mathematics 54(1951)· Ignacio Palacios-Huerta、“Professionals play minimax”、The Review of Economic Studies 70(2003)· Avinash Dixit、Barry Nalebuff、The Art of Strategy(Norton、2008)。


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