もし私が光の速さ c、真空中の光速で光線を追いかけるなら、その光線は、空間的には振動しているが静止した電磁場として見えるはずだ。しかし、そんなものはないように思われる。

— アルベルト・アインシュタイン『自伝ノート』(1949)

16 歳のとき、アーラウの学校で、アインシュタインは自分に問いかけました。光線と同じ速さでその横を走ったら、何が見えるだろう。ニュートンの物理学によれば、光は止まって見えるはずです。高速道路でとなりを走る車のように。ところが マクスウェル の方程式は、止まった光を許しません。そこでは光はいつも $c\approx300\,000$ km/s で進むのです。どちらかがまちがっている。どちらなのかを見きわめるのに、アインシュタインは十年かかりました。

二つの原理

1905 年 6 月、アインシュタインは論文「運動物体の電気力学について」を『物理学年報』に送りました。彼は二つの仮定から出発しました。

  1. 一定の速さで動くすべての観測者にとって、物理法則は同じである。 がたつかずに走る列車のなかでは、なかで行うどんな実験でも、列車が止まっているのか動いているのかはわからない。
  2. 真空中の光の速さは、こうしたすべての観測者にとって同じ $c$ である。 光源や観測者がどう動いていても変わらない。

二つ目は無害に見えますが、じつはとんでもないことです。秒速 100 000 km で光線を追いかけても、光線はやはり秒速 300 000 km で遠ざかっていくと測れるのです。それが可能になるには、何かがゆずらなければなりません。アインシュタインは、ゆずるのは 時間 だと示しました。

光時計

距離 $L$ だけ離れた二枚の平行な鏡のあいだを、光のパルスが往復する時計を考えます。一往復が一刻みです。時計のそばにいる人にとって、一刻みは

$$\Delta\tau=\frac{2L}{c}$$

です。今度は、この時計を速さ $v$ であなたの前を通りすぎる列車に乗せます。ホームにいるあなたから見ると、光はまっすぐ上下するのではありません。光が一方の鏡からもう一方へ進むあいだに列車は前に進むので、光の道すじは斜めになり、長くなります。

ホームから見た光時計。光が下の鏡から上の鏡へ進むあいだに、時計は v Δt/2 進む。光は L より長い斜めの道 c Δt/2 を進む。
ホームから見た光時計。光が下の鏡から上の鏡へ進むあいだに、時計は v Δt/2 進む。光は L より長い斜めの道 c Δt/2 を進む。Euler’s Eyes 作図

あなたが測った一刻みを $\Delta t$ とすると、半刻みのあいだに光は $c\frac{\Delta t}2$ 進み、列車は $v\frac{\Delta t}2$ 進みます。高さは $L$ のままです。ピタゴラスの定理 より、

$$\left(\frac{c\,\Delta t}2\right)^2=L^2+\left(\frac{v\,\Delta t}2\right)^2.$$

$L=\frac{c\,\Delta\tau}2$ を代入し、全体を $\frac{c^2}4$ で割ると、

$$\Delta t^2=\Delta\tau^2+\frac{v^2}{c^2}\Delta t^2\quad\Longrightarrow\quad \Delta t^2\left(1-\frac{v^2}{c^2}\right)=\Delta\tau^2.$$

こうして 時間の遅れ の式にたどりつきます。

$$\boxed{\Delta t=\gamma\,\Delta\tau,\qquad \gamma=\frac1{\sqrt{1-v^2/c^2}}.}$$

数 $\gamma$ は ローレンツ因子 で、いつも 1 より大きくなります。あなたにとって、列車の時計は遅れます。そして心臓でも原子でも、どんな時計も光時計と一致しなければなりません。そうでなければ乗客は自分が動いていると気づいてしまいます。だから、列車のなかの時間そのものがゆっくり進むのです。

速さ $\gamma$ 列車での 1 秒は、ホームでは
300 km/h $1.00000000000004$ 1 秒
$0.6c$ $1.25$ 1.25 秒
$0.8c$ $1.67$ 1.67 秒
$0.99c$ $7.09$ 7.09 秒

ふだんの生活では $\gamma$ はとても 1 に近く、効果は見えません。光の速さに近づいたときにだけ現れます。

若くなって帰ってくる宇宙飛行士

ある宇宙飛行士が $0.8c$ で星まで行って帰ってきます。宇宙船の時計では、旅は 6 年かかりました。地球では

$$\Delta t=\frac{6}{\sqrt{1-0.8^2}}=\frac6{0.6}=10\ \text{年}$$

がたっています。帰ってきた宇宙飛行士は、地球に残った双子のきょうだいより 4 歳若いのです。これはパラドックスに見えます。宇宙船から見れば、動いているのは地球だからです。ちがいは、宇宙飛行士が 向きを変える こと、つまり加速して座標系を変えることにあります。地球のきょうだいはそうしません。二つの立場は対称ではなく、ていねいに計算すれば答えはいつも同じです。旅をしたほうが年をとらないのです。

地上に届くミューオン

これは SF ではありません。宇宙線が大気にぶつかると、高さ約 10 km のところで ミューオン という粒子ができます。ミューオンは平均わずか $2.2$ マイクロ秒で崩壊し、$0.998c$ で飛びます。ニュートンの物理学では、平均して

$$0.998\cdot3\times10^8\ \text{m/s}\cdot2.2\times10^{-6}\ \text{s}\approx660\ \text{m}$$

しか進めず、地上にはほとんど届かないはずです。ところが実際には、1 平方メートルあたり毎分何千個も届いています。$v=0.998c$ では $\gamma\approx15.8$ です。私たちから見ると、ミューオンの体内時計は 16 倍近くゆっくり進み、ミューオンは約 35 マイクロ秒生き、平均して約 $10.4$ km 進むのです。時間の遅れは 1941 年にこうして測られ、粒子加速器や、飛行機に積んだ原子時計で精密に確かめられました。

長さが縮む

時間が変わるなら、距離も変わります。自分は止まっていると考えるミューオンにとっては、大気のほうが向かってくるのであり、厚さ 10 km の層は $\gamma$ 分の 1 に縮んで、約 630 m しかありません。通りぬける時間は十分あります。一般に、静止しているとき長さ $L_0$ の物体を、それが速さ $v$ で通りすぎるのを見る人が測ると、運動方向の長さは

$$\boxed{L=\frac{L_0}{\gamma}=L_0\sqrt{1-\frac{v^2}{c^2}}}$$

になります。これが ローレンツ収縮 です。時速 300 km の長さ 3 m の車は約 $10^{-13}$ m 縮みます。原子の大きさよりも小さな値です。秒速 260 000 km、つまり $0.867c$ で飛ぶ長さ 100 m の宇宙船は $\gamma\approx2.01$ で、約 50 m にしか見えません。

練習問題:いちばん近い恒星アルファ・ケンタウリは 4.37 光年のかなたにある。0.8c で行くと、地球と宇宙飛行士にとって片道はそれぞれどれだけかかるか?

地球から見ると、宇宙船は 4.37 光年を毎年 0.8 光年の速さで進むので、$\frac{4.37}{0.8}\approx5.46$ 年です。宇宙飛行士にとっては、時間を $\gamma=\frac53$ で割って $5.46\cdot0.6\approx3.28$ 年です。宇宙飛行士の立場では、距離が $4.37\cdot0.6\approx2.62$ 光年に縮み、それを $\frac{2.62}{0.8}\approx3.28$ 年で進みます。二つの計算は一致します。

練習問題:時計がホームの時間の半分しか刻まないようにするには、どれだけの速さで動けばよいか?

$\gamma=2$、つまり $\sqrt{1-v^2/c^2}=\frac12$ となればよいのです。二乗して $1-\frac{v^2}{c^2}=\frac14$、よって $v=\frac{\sqrt3}2c\approx0.866c$、秒速約 260 000 km です。上の例で半分の長さに縮んだ宇宙船の速さです。

出典: Albert Einstein、「運動物体の電気力学について」、Annalen der Physik 17(1905)、John Stachel 編『アインシュタイン論文選「奇跡の年」の 5 論文』所収 · Bruno Rossi、David B. Hall、“Variation of the rate of decay of mesotrons with momentum”、Physical Review 59(1941)· Einstein Online、特殊相対性理論。


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