1970 年代の終わりに、フランス・グルノーブルの数学教育研究所(IREM)の研究者たちが、小学生に奇妙な問題を出した。 船に羊が 26 頭、ヤギが 10 頭いる。船長は何歳か。 この問題には答えがない。問題文のどこにも、だれの年齢も出てこない。それなのに、教育者ステラ・バリュクが著書『船長の年齢』(L’âge du capitaine、1985)で有名にした報告によれば、97 人中 76 人の子どもが数で答えた。ほとんどが $36$、つまり問題文に出てきた二つの数の和である。 隠れた契約 子どもたちはうっかりしていたのではない。学校が口に出さずに教えた規則に、とても論理的に従っていたのである。どの問題にも答えがある、答えは数である、問題文の数はすべて使う、演算はことばが示しているものである。フランスの研究者ギ・ブルソーは、この暗黙の規則の集まりを教授学的契約と呼んだ。契約が文章より重くなると、文章は読まれなくなる。 人を誤らせるキーワード 契約のひとつにキーワードの規則がある。「多い」は足し算、「残り」はひき算、「それぞれ」はかけ算。教科書の多くの問題ではうまくいくので、身にしみつく。しかし文を逆にするだけでよい。 アナはアメを 12 個持っていて、ビアより 4 個多い。ビアはアメを何個持っているか。 「多い」ということばに従う人は足し算をして $16$ と答える。読む人は、ビアのほうが少ないことに気づく。$12 - 4 = 8$ である。記号のレジスターで書くと、問題文は $A = B + 4$、ただし $A = 12$ となる。方程式には「$+$」があるのに、求められている計算はひき算である。ことばが述べているのは量どうしの関係であって、読み手が行うべき演算ではない。 文章から方程式へのこの移行は、第2章で見たデュヴァルの意味での、表現レジスターのあいだの変換である。それは、ことばの順序と記号の順序が一致しないときにこそ難しい。 ポリアの四つの段階 ハンガリーの数学者ジョージ・ポリアは『いかにして問題をとくか』(How to Solve It、1945)で、いまも役に立つ手順をまとめた。 問題を理解する。 未知のものは何か。与えられているものは何か。条件は何か。問題を自分のことばで言えるか。 計画を立てる。 関連する問題を知っているか。量に名前をつけ、条件を方程式として書けるか。 計画を実行する。 計算をし、一歩ずつ確かめる。 ふり返る。 答えは筋が通っているか。単位は正しいか。問われたことに答えているか。 理解していない問いに答えるのは愚かなことである。 — ジョージ・ポリア『いかにして問題をとくか』(1945) 最初の段階があれば、グルノーブルの子どもたちは救われただろう。未知のものはある人の年齢であり、それについて述べているデータはひとつもない。最後の段階でもそうだ。$36$ 歳の船長はありそうな話だが、「この $36$ はどこから来たのか」という問いには答えがない。 練習:逆向きの値引き$20\%$ 値引きしたあと、シャツの値段は 40 レアルである。もとの値段はいくらだったか。「48 レアル」という答えはなぜまちがいなのか。 もとの値段を $p$ とすると、問題文は $0.8\,p = 40$ と言っているので、$p = 50$ である。$48$ という答えはキーワードから来る。「20% 値引き」は $40$ の $20\%$ をいじることを思わせる。しかしこの $20\%$ はもとの値段の $20\%$ であって、値引き後の値段のものではない。確かめると、$50$ の $20\%$ は $10$ で、$50 - 10 = 40$ である。