長方形の面積を求めるのは簡単です。底辺かける高さ。三角形もそうです。その半分です。困るのは、図形が曲がっているときです。円を小さな正方形でしきつめようとしても、どうしてもはみ出すか足りない部分が出ます。二千年にわたって、数学者たちはこの問題に同じ考えで立ち向かいました。曲線を、どんどん小さくなるまっすぐな図形で近似するのです。変わったのは、その考えを書く方法でした。 かこいこまれた円とアルキメデス 紀元前 250 年ごろ、シラクサで、アルキメデスは円の内側に六角形を、外側にもう一つの六角形をかきました。円周の長さは二つの六角形の周の長さのあいだにあります。それから辺の数を倍にしていきました。$12$、$24$、$48$、$96$。96 角形で、彼は次の結果にたどりつきます。 $$3\tfrac{10}{71}<\pi<3\tfrac17,$$つまり $3.1408\ldots<\pi<3.1428\ldots$ です。17 世紀の数学者たちが取りつくし法と呼んだこの方法は、曲がった図形とまっすぐな図形のちがいを「取りつくし」ます。「極限」という言葉より二千年も前の、極限の考えです。けれどもアルキメデスには、それを書く方法がありませんでした。問題ごとに、文と図で書かれた新しい議論が必要で、無限への移行は二重の背理法によって避けられていたのです。 ソロモン王の鋳物の海 聖書は、ソロモンの神殿にあった巨大な青銅の水盤をこう描いています。「彼は鋳物の海を造った。縁から縁まで十キュビト、周囲は丸く……その周りを測るには三十キュビトの縄を要した」(列王記上 7 章 23 節)。直径 $10$、円周 $30$、つまり $\pi$ は $3$ です。このサイトの以前の記事は、この測定がまちがっているのかを論じていました。この数には、もっともな説明があります。縁には厚みがあり、縄は縁の内側を回っていたのかもしれず、寸法は丸められていたのです。青銅を注文する人にとっては、$3$ は十分に役立つ $\pi$でした。 数に名前を 何世紀ものあいだ、円周と直径の比には記号がなく、「直径にかけると円周になる量」と言葉で説明されていました。1706 年、ウェールズの教師ウィリアム・ジョーンズは、ギリシア語 periphéreia(周、まわり)の頭文字 $\pi$ を使いました。オイラーが自分の本でこの文字を採用し、それが標準になりました。名前を得たことで、この数の立場は変わりました。二つの長さの関係ではなくなり、たしたり、2 乗したり、$A=\pi r^2$ のような式の中に入れたりできる対象になったのです。 ケプラーとワイン樽 1613 年、ヨハネス・ケプラーは二度目の結婚をし、祝宴のためにワインを買いました。商人は樽の口から反対側の角まで棒をさしこみ、ぬれた長さを読んで樽の容積を測っていました。すでに惑星の運動の法則を発見していたケプラーは、この方法をあやしいと思いました。形のちがう樽が、同じ対角線で、ちがう容積をもつこともありうるからです。1615 年、彼は『ワイン樽の新しい立体測定』(Nova stereometria doliorum vinariorum)を出版し、樽をごく薄い切り身に切って、その体積をたし合わせました。 二十年後、イタリアのボナヴェントゥーラ・カヴァリエーリは、この考えを不可分者として体系化しました。平面図形は無限に多くの線でできていて、立体は無限に多くの面でできている、というのです。強力で、危険な考えでした。厚さゼロのものを無限にたし合わせると、何になるのでしょうか。 積分になる和 答えはライプニッツとともにやってきました。それは何よりもまず、書き方による答えでした。$a$ と $b$ のあいだで、曲線 $y=f(x)$ の下の領域を、幅 $\Delta x$ の $n$ 個の長方形に切ります。面積はおよそ $$A\approx f(x_1)\,\Delta x+f(x_2)\,\Delta x+\cdots+f(x_n)\,\Delta x=\sum_{k=1}^{n} f(x_k)\,\Delta x.$$長方形が細いほど、近似はよくなります。極限で、幅が $0$ に近づくとき、和は $$A=\int_a^b f(x)\,dx$$になります。二つの式を並べてみてください。構造は同じです。和の記号、高さ $f$、幅。変わるのは文字です。「和」(sum)の S にあたるギリシア文字 $\Sigma$ が、ラテン文字の $\int$、引きのばされたもう一つの S になります。「差」(difference)の D にあたるギリシア文字 $\Delta$ が、ラテン文字の $d$ になります。ギリシア文字は有限を、ラテン文字は無限に小さいものを示し、一方の世界から他方への移行が、アルファベットの交代そのものに描かれているのです。このサイトの以前の記事は、これを mirabilis abbreviatio と呼んでいました。積分の書き方は、自分がどこから来たかを覚えているのです。$\int f(x)\,dx$ を見る人には、高さ $f(x)$、幅 $dx$ の長方形がまだ見えます。