熱方程式とド・ジョルジ=ナッシュの正則性
1900 年、パリの国際数学者会議で、ダフィット・ヒルベルトは、20 世紀の数学を導くと彼が考えた 23 の問題を発表しました。第 19 問題は、平たく言えばこう問いかけます。変分法の「性質のよい」問題の解は、いつも滑らかな関数か。半世紀たっても、ある重要な種類の方程式について、この問いは未解決のままでした。1956 年、ナッシュは同僚からこの問題を聞き、取り組むことにしました。
熱方程式 いちばん簡単な例から始めましょう。とても長い金属の棒の、点 $x$、時刻 $t$ における温度を $u(x,t)$ とします。熱は熱いほうから冷たいほうへ流れ、温度はフーリエの熱方程式に従います。
$$\frac{\partial u}{\partial t}=\kappa\,\frac{\partial^2u}{\partial x^2},$$ここで $\kappa>0$ は物質の拡散率です。この方程式は、ある点の温度は、まわりの平均より低ければ上がり、高ければ下がる、と言っています。
時刻 0 にすべての熱エネルギーが一点に集中していれば、$t>0$ での解はガウス関数
$$G(x,t)=\frac1{\sqrt{4\pi\kappa t}}\,e^{-x^2/(4\kappa t)}$$です。確かめましょう。$t$ で一回、$x$ で二回微分すると、
$$\frac{\partial G}{\partial t}=\left(-\frac1{2t}+\frac{x^2}{4\kappa t^2}\right)G,\qquad\kappa\frac{\partial^2G}{\partial x^2}=\left(-\frac1{2t}+\frac{x^2}{4\kappa t^2}\right)G.$$両者は等しくなります。釣鐘形の曲線は時間とともに広がって低くなり、面積は 1 のままです。エネルギーは保存され、広がっていきます。幅は $\sqrt t$ に比例して増え、アインシュタインのブラウン運動で進む距離とまったく同じです。偶然ではありません。熱は分子の揺れであり、熱方程式は遠くから見たランダムウォークを記述しているのです。
物質が不規則なとき ガウス関数にはすばらしい性質があります。初めの温度が無限に集中した尖った山であっても、どんな $t>0$ でも解は完全に滑らかです。拡散はすべてをならしてしまいます。
では、物質が一様でなかったら? 銅や木やガラスのかけらを無造作に貼り合わせ、かけらごとに熱の伝わり方が違う板を想像してください。方程式は
$$\frac{\partial u}{\partial t}=\frac{\partial}{\partial x}\left(a(x,t)\,\frac{\partial u}{\partial x}\right)$$となり、熱伝導率 $a(x,t)$ はかけらからかけらへ急に跳ぶことがあります。求められるのは、二つの正の限界の間にあること、$0<\lambda\leq a\leq\Lambda$ だけです。これほど不規則な係数では、解の公式はなく、解が導関数をもつかどうかさえはっきりしません。問いはこうです。温度は激しく変わりうるのか、それとも熱はやはりならすのか。
定理 ナッシュは 1957 年、熱はやはりならすことを証明しました。どんな次元でも、これらの方程式の解はヘルダー連続です。つまり、$\lambda$、$\Lambda$ と次元だけによる定数 $C$ と $0<\alpha\leq1$ があって、
$$\boxed{|u(x)-u(y)|\leq C\,|x-y|^{\alpha}.}$$物質がどれほど乱雑でも、温度は跳ぶことができません。ナッシュの証明はきわめて独創的でした。確率とエントロピーの考えを使い、熱を広がっていく質量として扱って、公式なしに解を制御したのです。この結果により、この種の方程式についてヒルベルトの第 19 問題は解決しました。